『人類は衰退しました 3』(田中ロミオ/ガガガ文庫)

人類は衰退しました 3 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 3 (ガガガ文庫)

 シリーズ3冊目です。これまでは中編作でしたが、本巻は妖精さんの、さとがえりの長編1本の収録となっています。衰退中の人類の記録を後世に伝えることを目指すヒト・モニュメント計画。その計画の一端として都市遺跡の調査を行うことになりますが、調査のための電力供給に伴う電磁波の発生で妖精さんたちがクスノキの里からいなくなってしまいます。
 妖精さんたちが去り際に調停官である”わたし”に残したマニュアルは、妖精さんの地域密度(単位:f)に応じた状況の危険度が示されます。「f」というのはフェアリー(Fairy)の「f」なのですが、フィクション(Fiction)の「f」とも取れるわけで、妖精さんがいなくなったゼロ「f」な状況下での都市遺跡の調査と探索は最初から雲行きが怪しいです。
 案の定、”わたし”と助手さんは都市遺跡の中で迷子になってしまって脱出に苦労することになりますが、その苦労が並大抵のものではありません。都市遺跡の棚を探したら小さなメダルが出てきたり、はたまたタッチパネルによるマッピングなどといったジョークがそこはかとなく織り交ぜられていますが、そうしたゲーム内におけるダンジョンの探索行では、いくら歩いたところ疲労することもなければ飲み食いする必要もありません。ところが、生きている人間がそうした状況に置かれてしまったら、そうはいきません。食べることと出すことは考えなければいけませんし睡眠だって必要です。それより何より水分補給は絶対に欠かせません。人間、食べなくても意外と生きていくことはできますが、水分がなくなると脱水状態になってお終いです。電力供給によって文化的な生活が送れるかと思いきやこの苦難。”わたし”の人生はトラブル続きです。
(以下、中盤以降の展開に触れるので一応既読者限定で。)
 とはいえ、本書はあくまでも滅び行く人類と妖精さんのお話なので、ゼロ「f」のまま物語が終わっちゃうようなことはありません。妖精さんが出てくれば物語の「f」度も上昇していきます。そしたら今度は意外にSFな展開を見せることになります。”わたし”たちの危機に現れて助けてくれる”ぴおん”(通称P子)と、彼女と敵対するO太郎。二人は自分たちを人間だと主張していますがどうみてもメカニックです。スタージョンの法則みたいなことを言いながら凶悪ブルドーザーで襲ってくるO太郎とそれを迎え撃つP子とのバトルは明らかにスタージョンの『殺人ブルドーザー(原題:”Killdozer!”)』(創元SF文庫『地球の静止する日』収録)を意識したハチャメチャなものですが(笑)、単調な探索行・脱出行にならないよう起伏付けがされているので読んでて飽きません。ただ、巨大猫への電子レンジという都市伝説攻撃はやり過ぎだと思います(笑)。
【参考】http://k-gensai.hp.infoseek.co.jp/mythsandtruths/t001microwavecat.html
 衰退期を迎えちゃってる人類ですが、その背景にある”大断絶”と呼ばれている知識や文化や情報の断絶が生じてしまった原因についても語られたりします。妖精さんが出てくるほわほわファンタジーかと思いきやSF的な展開も見せたりして、ホントに油断がなりません。上手いなぁとシミジミ思います。最後に”わたし”が下した決断は意外に重いものですし、物語としての読み応えが抜群です。
 古来より妖精の物語は想像力を刺激される幻想的なもので、しかしながら意外と非合理で残酷だったりします。そんな妖精物語の現代版として本作は立派に成立していると思います。オススメです。
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地球の静止する日―SF映画原作傑作選 (創元SF文庫)

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