『人類は衰退しました 5』(田中ロミオ/ガガガ文庫)
- 作者: 田中ロミオ,山崎透
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/01/19
- メディア: 文庫
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妖精さんの、ひみつのおちゃかい
これまで幾度か触れられてきた”わたし”の学舎での生活が明かされます。9歳から10年以上の学舎での生活は、まさに人格形成の場であったといえるわけですが、それが一本の中編としてまとめられています。
今まで語られてきた思い出話や学舎最後の卒業生・ゆとり世代といった言葉から、何となく牧歌的な学生生活を想像していたのですが、そんなことは全然なくて、『AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~』を書いた作者の作品らしい学生生活がそこには描かれています。「人見知り」するのが”わたし”の性格ではありますが、子供のころは人見知りどころではなく、厭世的で周囲と打ち解けることができなくて自分の世界を守るために殻に閉じこもって、結果としてさらなる軋轢を生むことになります。彼女にとって学舎での生活は決して楽しいものではありませんでしたが、徐々に周囲との付き合い方・距離感を把握し、充実した生活を過ごせるようになります。それはまさに、「紆余曲折の末、両者にとってちょうど良い距離に気付く」(参考:ヤマアラシ - Wikipedia)というヤマアラシのジレンマをテーマにした成長の物語です。
学舎での”わたし”は、クスノキの里で暮らしている”わたし”と比べると鋭くて尖がってて少しイメージと合わない感じもあったりしましたが、しかし、3巻で”わたし”が下した決断とかを考えると、”わたし”の本性というか性根というものは確実にこの学舎で形成されたものだといえるのでしょうね。これまで名前だけは出てきていた友人Yのほか、〈巻き毛〉やお茶会の先輩たちとの交流も描かれています。シリーズのファンであれば必読の作品です。
妖精さんたちの、いちにちいちじかん
「ゲームは一日一時間」。ファミコン世代の方であれば懐かしく思われるのではないでしょうか。そんなレトロなゲームネタが本編ではもりだくさんです。それらの元ネタについてはこちらのブログやこちらのブログなどでまとめられてます*1のでご参考まで(手間が省けました・笑)。
個人的にはいろいろと懐かしいと思うネタばかりだったので楽しめましたが、若いラノベ読みの方ですと、ひょっとしたら何が何やらわけのわからないものばかりでいまいちピンとこないかもしれません。ただ、そもそも本シリーズは、
情報は失われます。
わたしたち旧人類は、その歴史の中で情報的な断絶を幾度か挟んでいるのです。
たとえばわたしたちは、人類が引退を決意した決定的な理由を知りません。ただ遠い昔、そういう決断があったとだけ伝えられています。
どこかに情報は眠っているのかもしれません。
でもそれを取り出して改め、真相を明らかにしようという情熱を、もう我々は有していません。
衰退しちゃってるんです。
(1巻p99より)
というお話です。であるからこそ、本シリーズは古い情報をネタとして眠らせて、掘り起こされるのを待っているのだと思います。人類が衰退しちゃわないように。もっとも、そこに眠らされている情報はかなり偏っているとは思いますが(笑)。
ただ、本作のリアル度の上下による物理現象の変化という設定は、3巻の「f度」の二番煎じみたいで新味に欠けた読後感になってしまっているのは否めませんが、名作レトロゲームのパロディとしては面白かったです。
妖精さんは記憶も時間も超えた存在なのです。
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