『人類は衰退しました 2』(田中ロミオ/ガガガ文庫)
- 作者: 田中ロミオ,山崎透
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/12/19
- メディア: 文庫
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人間さんの、じゃくにくきょうしょく
「じゅうぶんに発達したテクノロジーは魔法と区別がつかない」とはA・C・クラークの遺した言葉ですが、衰退しちゃった人類にとって妖精さんの作る理解不能な道具がどっちなのかは区別がつきません。なので、このシリーズ自体もSFなのかファンタジーなのかよく分からないのですが(笑)、そんなジャンル的な境界線をアッサリ無視して自由な物語が紡がれています。ただ、1巻はのんびりほわほわな雰囲気だったものが、この巻ではかなり危険度が上がっています。一人称視点”わたし”の語りが突然ナレーター調のメタな語りに切り替わるといったお遊びはギャグ漫画によく見られる手法でして、それだけ見ると笑うべきなのでしょうが、”わたし”の身になると全然笑えません。ギャグでもありシリアスでもあり。『ガンバの冒険』を彷彿とさせたりするメタな筋立ては物語に没入できなくなるので本来ならあまり好みではないのですが、笑いの中にもスリルや緊張感といったものが伝わってくるので読んでて楽しいです。
ってか、このスプーン何気にヤバイですよね。何でもアメリカでは、それまで低く見られがちだった妖精物語が1960年代に起きたドラッグ・カルチャーによる意識革命のひとつとして見直されてきた、なんて話もありますが*1、ちょっとクスリをやっちゃってるようなヤバさがそこはかとなく漂ってます(笑)。
人類が衰退しちゃって妖精さんに地球の主が変わってしまうという動き自体がそもそも弱肉強食において滅び行く種がたどる運命なわけですが、しかしながら妖精さんは人間さんがとても大好きで、なのに人類は滅亡への道を辿っています。何だか不思議なお話です。
妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ
ラベンダーならぬバニラエッセンスとシナモンの香りに包まれたタイムスリップならぬタイムトリップで平行世界なお話です(ナンノコッチャ)。この物語に登場する人間は誰一人として名前(本名)が明かされることがありません*2。主人公の”わたし”は”おまえ”だったり孫娘だったり調停官だったりしますし、他にもおじいさんに女医さんに助手さんです。こうした名称は社会性があるからこそ生まれる呼称です。人と人との関係性によってこうした呼称は変化することになります。妖精さんのいたずらによって定まらぬ時間をさ迷って、『不思議の国のアリス』のようなお茶会を経て、ようやく”わたし”が出会った助手さん。探し物は探す人がいるからこそ探し物なわけですね。
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