読書中のニヤリングにご注意ください 『別冊 図書館戦争I』有川浩

別冊 図書館戦争〈1〉

別冊 図書館戦争〈1〉

 4/10からアニメも始まります*1有川浩図書館戦争』のスピンアウト本です。
アニメ『図書館戦争』公式サイト
 本編では書ききれなかった「あの二人」についてベタ甘全開に書かれています。
(以下、本編を読了した人向けで)
 本編では主人公の熱血バカ・笠原郁と王子様こと堂上教官が結婚して終わるのですが、今作はまさに「付き合ってから結婚するまで」というまさにバカップル真っ只中のエピソードをクローズアップしています。
 「明日はときどき血の雨が降るでしょう」は『図書館革命』の当麻亡命事件後、堂上が転院したところから始まります。二人の付き合いだした初々しさと茶化す同僚たちにキレる堂上のお茶目さがポイント。
 「一番欲しいものは何ですか?」は年始に笠原にかけられた一本の電話から起こる(本人)緊張の大イベントのお話。ラブコメ部分だけではなく、日常パートもしっかり描かれており、手塚や笠原の人間的な成長がうかがいしれるエピソードです。
 「触りたい・触られたい二月」はバレンタイン前後のエピソード。タイトルどおりけっこう内容が生々しい(笑)のですが、あけすけな笠原のキャラもあってあまりエロく感じませんでした。それにしても「純粋培養乙女二十六歳・茨城県産」はウケた。
 「こらえる声」はもう一歩進んだ生々しいエピソード(笑)です。バカップルの進捗もさることながら、日常(事件)パートでのメンバーのやりとりも面白かったです。今作では笠原と堂上が主役ですが、手塚と柴崎をクローズアップしたエピソードも読みたいな、と感じました。
 「シアワセになりましょう」は、ラブコメにつきもののケンカが発端のお話です。二人のケンカの理由や仲直りに至る過程も面白いのですが、描かれている「事件」も考えさせられます。メディア良化法という事実上の「検閲」がまかり通る世の中で、一切「違反語」を使わずに書かれた、それでいて内容は差別的表現・反社会的表現に溢れた小説をめぐるエピソードなのですが、著者・有川浩の「言葉」に対する思いを垣間見た気がします。「差別語」を使うからいけないのか。「差別語」を機械的に狩ればよいのか。狩られていない言葉を使えば差別にならないのか。「差別語」を一切使わないその本に立ちはだかったのは、「主観」による検閲。現在話題になっている「準・児童ポルノ問題」を彷彿とさせます。もちろんそんな深いことは考えず、ラブコメ分を存分に吸収しても良いでしょう。
 あとがきで著者も言っていますが、まさに

ベタ甘は仕様です。駄目な人は本気で回避してください。(p272)

 と呼ぶのにふさわしい一冊です。フジモリも読みながら何度も「あぁもぉ!こんちくしょお!」と本を壁に叩き付けたい衝動に駆られました(笑)。ベタ甘ラブコメ分あり、散りばめられた日常事件については考えさせられるところもあり、良い意味で『図書館戦争』シリーズのコンセプトをぎゅっと凝縮していると思います。
 ラブコメ分の過剰摂取によるニヤリングにご注意し、またアレルギーの方は恥ずかしさのあまり床を転げまわらないよう深呼吸をしながらお読みください(笑)。
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*1:関西テレビは4/22からみたいですが