『3月のライオン』は『ハチワンダイバー』とは真逆のマンガかもしれない
- 作者: 羽海野チカ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2008/02/22
- メディア: コミック
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●『ハチワン』は将棋漫画で『3月のライオン』は棋士漫画 - 三軒茶屋 別館
羽海野チカ『3月のライオン』を読了しました。「将棋」を効果的に使っている「人間ドラマ」だなあ、というのが読了直後の感想です。
主人公・桐山零は幼少からのトラウマから、人に心を開いていません。普通はここで「将棋という熱き魂のぶつかり合いによって主人公の閉ざされた心が開いていく」という展開が予想されますが、1巻を終えた時点では主人公の心の解放は「将棋」以外の部分にあるのでは、と思わせます。
前作『ハチミツとクローバー』も美大という舞台で物語が動いていますが、美術的な蘊蓄や美術に絡んだ展開はほとんどなく*1、コミカルなタッチながらも主人公たちの心の機微を痛いぐらいに汲み取った漫画でした。
ただし「ハチクロ」でも美術という要素が全く関係ないわけではなく、要所要所で彼女・彼らの心情や「才能」を示す限界点を表わすために彼女・彼らの「作品」が用いられていました。
『3月のライオン』の単行本では作中で用いられた盤面についての解説もありますが、現実に指された盤面と作中の盤面がリンクします。
例えば、第一話で零が育ての親である幸田を負かした一戦。
●『3月のライオン』盤面チェック - 三軒茶屋 別館
この盤面の解説として、このようなことが書かれていました。
若き王者中原に挑む新鋭大内は得意戦法「穴熊」を引っさげてこの名人戦を戦います。
(中略)
19ページの局面は「投了図」。大内八段が敗北を認めた瞬間の盤面です。ひとりの棋士の無念の思いがこの一コマにあるわけです。(p36)
『3月のライオン』ではテクニカルな記述は極力廃され*2ていますが、引用されている盤面のオリジナルを辿ることで彼らの心の内を辿ることができるかもしれません。
『ハチワンダイバー』で菅田が将棋という「戦い」に特化していき(他を切り捨てて)内に内に進んでいく物語であるというのとは真逆に、『3月のライオン』は他を切り捨てて将棋の世界に特化してきた桐山零が外の世界を知っていく物語なのではないかなあ、と思いました。
同じ世界を舞台にしながらも全く異なる物語が紡ぎ出せるという「将棋」の可能性も感じることができた一冊でした。
・・・まあ、詳細な解説はアイヨシに任せることにしましょう(ぶん投げ)。
余談ですが、内に内に閉じこもって他を切り捨てていた主人公が「外」を知り「解放」されるという枠組みは、森博嗣のS&Mシリーズ主人公・犀川創平とかぶって見えてきます。*3
犀川創平は『ハチクロ』の花本先生のモデルでもありましたし、桐山零に通じるところもあるかもしれませんね。
森 なんかちょっと危ないところを持っているのも、似ていますね。
羽海野 そうですね。ひとりで考えが止まらなくなっちゃうシーンとか。「大変だ、この人・・・・・・」って。助けてあげたいなと。(MORI LOG ACADEMY P334)