『ひらけ駒! 1巻』将棋ヲタ的雑感

ひらけ駒!(1) (モーニング KC)

ひらけ駒!(1) (モーニング KC)

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「親目線」で楽しむ新しい「将棋漫画」、南Q太『ひらけ駒!』 - 三軒茶屋 別館
 『ひらけ駒!』1巻刊行ということで、遅まきながら当記事では将棋ヲタ的観点から補足的なことを少々。

「宝」という名前

 主人公の少年の「宝」という名前ですが、これは玉、金、銀、桂馬、香車(「宝石で飾られた車」の意味)のいわゆる「宝物駒」が元ネタになっているものと思われます。

実在の棋士のキャラクター

 囲碁将棋の愛好者で文芸評論家の西上心太さんは、もう一つのハードルを指摘する。「現実の棋士に魅力がありすぎ、それに勝てるフィクションがなかった」。将棋の名人に挑み続けながら29歳で死去した村山聖(さとし)さんを描く『聖の青春』など、実在の棋士のキャラクターが小説以上に強いのだ。
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201102280053.htmlより

 将棋漫画に出てくる棋士は、『ハチワン』にしろ『3月のライオン』にしろとても個性的なキャラクターです。ですが、プロの将棋を見るようになってプロ棋士についていろいろ詳しくなってくると、実在の棋士のほうが魅力的(というか個性的)だと感じることは確かにあります。なので、詳しく取材すればするほど将棋を題材にしたフィクションは作り難くなる、というジレンマは確かにあるでしょう。その点、本書の場合には実在する棋士をそのまま登場させることで個性的なキャラクター作りという手間が省かれています。一般人に将棋界に興味を持っていただく上で最適な漫画だといえますが、将棋ヲタ的には棋士女流棋士が少し美化され過ぎな気もして面映いです(笑)。

田丸昇八段

 第1話に登場している田丸昇八段は自身のブログで『ひらけ駒!』について触れられています。
「モーニング」誌の将棋漫画『ひらけ駒!』の第1話に田丸がなぜか登場: 田丸昇公式ブログ と金 横歩き

女流だってすげー強いんだぜ

 第4話p72に出てくる「女流」という言葉ですが、いわゆるプロ棋士女流棋士は制度的に異なる存在です(【参考】女流棋士 (将棋) - Wikipedia*1。ちなみに、p72で名前が挙げられている中井広恵清水市代石橋幸緒斎田晴子矢内理絵子岩根忍、甲斐智美、里見香奈はいずれもプロ棋士に公式戦で勝利したことのある女流棋士です。

高橋和女流三段

 現在は引退して普及活動に力を入れられています。
女流棋士 高橋和の「将棋の森@kichijoji」

ぴょんぴょんしょうぎ

ぴょんぴょんしょうぎ

村山聖九段

 ところで実在のモデルがいるのかどうか悩む3月のライオンですが、ただひとり、二海堂君だけは、よく似てるという棋士がいます。故村山聖九段が、その人です。小さいころから体が弱かった村山九段は、そのことをおくびにも出さずに将棋界の中で闘いつづけました。「名人になりたい」が彼の心の支えだったと思います。そして二海堂君同様、ちょっぴりお茶目なところもある人間でした。(ちなみに体型もそっくりです)
3月のライオン 1巻』(羽海野チカ白泉社)p166より

聖の青春 (講談社文庫)

聖の青春 (講談社文庫)

3月のライオン (1) (ヤングアニマルコミックス)

3月のライオン (1) (ヤングアニマルコミックス)

藤井猛九段

「こちとら鰻しか出さない鰻屋だからね。ファミレスの鰻に負けるわけにはいかない。」
(本書p148より)

 藤井九段といえば四間飛車の定跡に革命をもたらした「藤井システム」です(【参考】藤井システム - Wikipedia)。居飛車左美濃穴熊に対しての斬新な指し方、特に居飛車穴熊に対して居玉のまま仕掛けて攻め潰すという構想は画期的でした。それだけ優秀な戦法となれば、当然他にも指してくる棋士も出てくるのですが、そんな状況に対して藤井九段の答えが上記のコメントです。
鰻屋本舗(将棋) - 藤井猛九段公認応援サイト



【関連】
『ひらけ駒! 2巻』(南Q太/モーニングKC) - 三軒茶屋 別館
『ひらけ駒! 3巻』(南Q太/モーニングKC) - 三軒茶屋 別館
『ひらけ駒! 4巻』(南Q太/モーニングKC) - 三軒茶屋 別館

*1:ちなみに、渡辺竜王里見香奈女流三冠について「初段〜二段以上の力はありそう」と評しています。