『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 2』(入間人間/電撃文庫)

 1巻の帯には”問題作”という表記がありましたが、本書あとがきによりますと、そうした反響もそれなりにあったみたいですね。
 しかしながら、私自身は実のところ問題作どころか課題図書的な作品として評価しています。一般的なミステリーは、その事件の犯人は誰かという犯人当てゲームという側面から物語が進められていくのがパターンです。ですから、犯人が誰かが分かってしまえば、その後は後日譚のような幕引きで物語は終わってしまいます。また、実際の犯罪を扱う司法の場にしても、真実発見の場としての側面ばかりが強調され、その結果冤罪の発生を防ぐための被告人の権利(それが重要なものであることは間違いないので誤解のないように)ばかり論じられてきました。そうした中、事件の被害者やその家族・遺族といった人々の権利が軽視されているのではないかという点が問題として提起され、その結果、犯罪被害者保護法(参考:犯罪被害者保護法)が成立しましたが、それはつい最近(2000年5月成立)になってからのことです。
 ですから、事件のその後・犯罪被害者とその周辺を主要キャラクタとして配置している本シリーズは極めて現代的なテーマを扱っているといえますし、それがライトノベルという中高生向けのレーベルで、小ネタを交えつつコミカルかつシニカルに描かれていることも素直に評価したいです。
 犯罪被害者の保護を語る上で欠かせないのがプライバシー保護という側面です。被害者であるにもかかわらず事件の当事者として真相を語ることを要求されますが、それによって事件で負った心の傷がさらに深くえぐられることにもなりかねません。ですから、被害者の言葉は一部伏せられたりあるいは制限されたりと、フィルターがかかって伝えられるケースがあります。それは一見すると真相解明と矛盾するものに思われるかもしれません。しかし、そうすることで、あるいはそうしなければ語られることのない真実というものもあります。本シリーズのみーくんの語りは”騙り”に近くて、それには陰惨な過去にあった出来事をオブラートに包む効用がある一方で、ストレートな気持ちとかも無駄に複雑・婉曲的なものにしてしまったりします。そうした騙り的な語りも、本シリーズが抱えるテーマ性から私は必然性を読み取って評価しています。特に1巻は上手く機能していたと思います。
 で、本書2巻になりますと、ちょっと事情が変わってきます。みーくんとの関わりの深い新キャラ(昔からの付き合いのある仲ですが)が登場する関係で、その新キャラとの関係でみーくんの心情や信条・スタンスといったものが改めて鮮明になる一方(もともとそういう構成ですが)、みーくんとまーちゃんの関係というものはあまり発展しないので、物語としての進展はほとんどありません。
 ただ、第三者の介入によって再確認させられるのはみーくんの駄目駄目な状況ですね。嘘でもいいから幸せにが基本姿勢でしょうが、そうした幸せそのものが嘘になってしまう危なっかしさはまさに綱渡りです。幸せにホントも嘘もないとは思いますが、さりとて、嘘の先に幸せがあるとも思えません。そんな二人の関係の先には暗いものしか見えてこないのですが、いったいどうなるのでしょうね? 先行きの暗い明るい云々よりも、そもそも先があるのかどうかが問題ですが。一応、物語としては12月に3巻が出るみたいなのでそれを待つことにしますが、楽しみなような楽しみでないような(苦笑)。はてさて……。
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