棋士ブログの楽しみ方

 8月15日発売の『増刊ビッグコミックスピリッツcasual NO.16』には、菊地昭夫による読み切り将棋漫画『ラスト・ゲーム』が収録されています。将棋の監修は森信雄七段です。増刊号という珍しい形式での雑誌掲載ですので目に付きにくいかもしれませんが、すぐに入手困難になっちゃうと思うので興味のある方は早めにご覧になることをオススメします。将棋と勝負と奨励会の厳しさとが凝縮した味わい深い物語です。短いお話ですが超オススメです。
 作中の根幹となっている「2五桂か? それとも1五桂か?」というシーンを見て思い出したのが、最近見た遠山四段のブログです。
木下六段戦: 遠山雄亮のファニースペース
 2四桂か1四桂か? 終盤のギリギリの場面での一路の違いが勝敗に直結するという実例です。まさに薄氷の勝利と言えるでしょう。「勝負の世界に”たられば”は禁物」とはよく言いますが、将棋の場合、通常プロアマ問わず決着後の検討・感想戦をします。「こう指すんじゃなかったよね? もしこう指してたらどうするつもりだったの?」など、”たられば”を普通に、熱心に検討します。プロだと2時間くらい感想戦が行なわれるのも珍しくないそうです。将棋の感想戦の場合、勝敗への未練を引きずるために感想戦を行なうわけではありません。将棋というゲームを極めようという一心がその原動力となります。だからこその芸道です。もうひとつ、敗者にとっては明日の勝利のためという側面も、もちろんあります。
投資 - ちゅう太ブログ
 こちらの上野裕和五段のブログのケースだと、「もしもう一歩(いっぷ)あったら?」というあり得ないケースにおける詰みの有無まで検討されています(ちなみに、コメント欄に登場している宮田敦史五段は詰将棋の名手として知られていますが、終盤での寄せの場面においても他のプロからも一目置かれるほどの切れ味を誇っています。現在病気療養中ですが、体調は万全になってきてると聞いておりますので、少しでも早く宮田五段の将棋に触れる日が来ることを願わずにはいられません)。疑問は漏らさず解決するという意識の高さがプロ将棋のレベルを高いものにしているわけですが、それというのも次から次へと疑問が沸いてくる将棋というゲームの奥深さを物語っています。
 棋士のブログの楽しみ方は人それぞれでしょうが、私個人としては、やはりこのようにご自身の将棋・棋譜について語ってもらっているのを読むのが一番の楽しみです。そこには専門誌にも書かれていないようことが書かれてたりしますし、将棋に対する棋士の考え方というのも自ずと伝わってきます。
王将戦二次予選対佐藤(紳)五段戦。 - 渡辺明ブログ
 なかには上記のように、プロ棋士も驚くほどの高度な内容を書いてくれたりもしてくれています(ありがたやありがたや)。
 このように、プロ棋士のブログは将棋の面白さを伝えてくれるとても意義のあるものです。もちろん、将棋から離れた棋士の日常からその棋士に興味を持っていただき、それから将棋を知っていただくのも全然OKなのですが、こういうところに面白さがあるんだよー、というのを少しでも感じ取っていただければ幸いです。