「将棋世界」2012年10月号感想
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感想戦後の感想 第85回 佐藤紳哉六段「絶不調から立ち直った勝率1位賞」
「トヨシマ? 強いよね。序盤、中盤、終盤、スキがないと思うよ。だけど、俺は負けないよ。駒たちが躍動する俺の将棋を、みなさんに見せたいね」
●第62回NHK杯テレビ将棋トーナメント1回戦第3局:佐藤紳哉六段対豊島将之七段戦
今回「感想戦後の感想」で取り上げられているのは佐藤紳哉六段です。NHK杯で話題をさらったあのインタビューを枕に、カツラの話や民放のバラエティ番組(アカン警察*1)に出演した話などについての裏話が語られていますので、興味のある方は是非。
ちなみに、私が個人的に興味深く思ったのがこの部分。
「ここで投了してもおかしくなかったんですが、感想戦を1時間ぐらいやらなきゃならない。インタビューで大きなことをいった手前、感想戦は短くしたいわけですよ。あとは、ただ指しただけですが、感想戦は10分ほどですみました」
(本誌p158より)
NHK杯など放送時間枠のある将棋で早い段階で一方的な将棋となってしまった場合に、それでも不利なほうが投げずに指し続けてますと、某巨大掲示板などでは「そんなに感想戦をしたくないのか」といった将棋ヲタの容赦ないレスが書き込まれるわけですが、そういうのは当然のことながら対局者も意識しているわけですね。
棋士が聞くプロ対談 第10回 石田和雄九段×森下卓九段「夢になき、夢に笑った50年」
プロがプロに質問する対談シリーズは玄人好みの組み合わせです。この中で紹介されている平成7年名人戦第1局での森下九段のエピソードですが……。
森下 この頃の羽生さんは神がかり的だった。でも、本当の敗因は私自身にあります。私は24歳のときに将棋から心が離れた。名人戦に出た28歳の私は対局中でも電話がしたくてしょうがない。もう将棋は終わっているのに、羽生さんは考えている。なぜ投げないんだ。早く電話をしたい。そう思っているうちにふらふらと△8三桂を指してしまった。
(本誌p46より)
『ハチワンダイバー』4巻で二こ神さんが語っている将棋と女の関係(「女だけは必死で積みあげてきたもののとなりに一秒で座る」)が思い起こされます。
また、現在の棋士の生活・公益法人改革から日本将棋連盟のあり方についても話は及びます。
森下 (前略)公益法人改革があって、いまは棋士の収入が非常に厳しくなった。給料は減ったし、厚生年金もなくなったし、あらゆる手当がカットされた。しかも、三段リーグや順位戦の競争は昔とは比較にならないほど厳しい。棋士生活の安定はまったくなくなったといっていい。(中略)将棋連盟の今後についてひと言だけいうと、もともと将棋連盟という組織は互助会としてスタートしだんだそうです。勝てない棋士も食わしてやろうという発想ですね。しかし、いまの時代にその考え方が通用するのかどうか。1位が2千万円で100位が500万。そういう制度でいくのか、1位が3億で100位はゼロ。そういう制度にするのか。そろそろはっきりしたほうがいい時代なのかもしれません。
(本誌p47〜48より)
厳しい現実の中にあって、いかにして後輩たちにとって頑張り甲斐のある世界を作り、いかにしてファンにとって夢のある将棋を見せ続けていくのか。難問です。
突き抜ける!現代将棋 第37回「角交換四間飛車を語ろうか」
今回は、藤井猛九段が連採して王位戦の挑戦権獲得の原動力となったことで俄然注目を集めることになった角交換四間についてです。「振り飛車には角交換」という格言がありましたが、これは今や昔。今や、振り飛車側から角交換を挑む時代となりました。前史として「立石流四間飛車」について触れられた上で、2003年にアマチュアで有力とされていた「角交換四間振り穴(レグスペ)」がプロ棋士に採用されるようになり、天才戦略家・藤井猛の参戦と、さらにゴキゲン中飛車の苦戦と相俟って、角交換四間は一躍注目されるようになり、その鉱脈の豊かさも徐々に明らかとなってきました。指す側としても観る側としても押さえておきたい戦型だけに、必読といってもいい内容だと思います。
ちなみに、手損を気にしない角交換四間の指し方について「マイナスの手を指さない方が重要」という藤井九段の言葉が紹介されていますが、これなどは「将棋の手はほとんどが悪手である」という羽生善治の言葉を序盤戦法として具体化したものだといえるでしょう。
象牙水無瀬駒と葵紋蒔絵将棋盤
「開運!なんでも鑑定団」で話題になった駒盤一式についてのまとめ記事です。そういえば、そんなこともありましたね……。
このほかにも、王位戦第3・4局についての解説など、読み応えのある記事が盛りだくさんです。興味のある方は是非読んでみればいいと思うよ。
【関連】http://www.shogi.or.jp/topics/2010/09/post-329.html