振り駒についてあれこれ

 振り駒とは、将棋において先手、後手を決める儀式のことです。相互の実力に差がない場合、あるいはプロ棋士が対局するとき、段位が上の人が自陣の歩を五枚取り、振ります。歩兵と書かれた表が多く出たら振った人が先手になり、「と」と書かれた裏が多く出たら、相手が先手になります(参考:『日本将棋用語辞典』)。漫画『ハチワンダイバー』でもそうやって先手後手を決めてることが多いのでおなじみの方法ですね。
 ところでこの振り駒、本当に公平な結果の出る方法なのでしょうか? 日本将棋連盟はこの振り駒について数年前から統計を取っています(確か森内名人の発案じゃなかったかと思います)。で、平成17年度、18年度の振り駒の結果については次のとおりとのことです。
振り駒の結果 - 将棋あれこれ
 この数字を見ると、ほぼ五分の結果ですから、理想的な先後の決定方法だといえます。これはこれで驚きです。いやー、先人の知恵って凄いですね(笑)。
 ちなみに、『週刊将棋』2007年8月1日号には振り駒特集が掲載されていました。2006年度のデータをもとに、回数部門ベスト3、勝数(先手)数部門ベスト3、負数(後手)数ベスト3、勝(先手)率ベスト3&ワースト3が発表されています。
◆回数部門ベスト3

順位 名前 回数
佐藤康光二冠 43
阿久津主税六段 42
片上大輔五段、西尾明四段 34

◆勝数部門ベスト3

順位 名前 勝数
佐藤康光二冠 29
阿久津主税六段 25
糸谷哲郎四段 19

 ちなみに、佐藤二冠は43回中の29勝で勝率0.674、阿久津六段は0.595、糸谷四段は0.613、とのことです。
◆負数部門ベスト3

順位 名前 負数
森内俊之名人 21
村山慈明四段 19
山崎隆之七段 18

 ちなみに、森内名人は28回で21敗(勝率0.250)とのことです。
◆勝率部門ベスト3

順位 名前 勝率
戸辺誠四段 0.800(8-2)
沼春雄六段 0.750(9-3)
伊藤博文六段 0.750(9-3)

◆勝率部門ワースト3

順位 名前 勝率
清水市代女流二冠 0.200(2-8)
伊藤能五段 0.200(3-12)
関浩六段 0.231(3-10)


 ところで、たかが先後の決定方法になぜこれほどこだわるのかと言いますと、将棋の勝負における勝率というもので考える場合に、年度によって違うのですが、それでも毎年度先手の方が勝率が高いという現実があるからです。
【参考】
先手の実質的勝率はどの程度か - 勝手に将棋トピックス
王位リーグ白組プレーオフ対山崎七段戦。 - 渡辺明ブログ

 最近、居飛車党同士の対戦では振り駒が大きいと感じています。ほとんどの居飛車党が後手番での作戦に苦労していますからね。同じ後手でもあらかじめ決まっている後手と振り駒での後手はかなり違うものです。

 かつて△8五飛車という後手番での戦法を得意にしていた渡辺竜王今でもときどき指されてますが)の言葉だけに重みがあります。
 このように、勝負の世界ですから少しでも有利な方が欲しいのが当たり前で、つまり皆できれば先手が欲しいのです。『ハチワン』2巻p13で、「アナタに3連敗中の僕が先手で」って言ってますが、これはちょっとしたハンデなのですね。もっとも、たいしたハンデではありません。先手だからといって必勝戦法があるわけでもありません。それに将棋の戦法には先手用・後手用のものもあったりして、その人の得意戦法によっては「後手が欲しい」という場合もあるので何とも言えませんけどね。ただ、将棋の対局において大体の場合、先手の攻めに後手の受けという構図になりがちです。そうなると、攻めでミスが出ても必ずしも即負けということにはなりませんが、受けでミスが出ると即負けです。そういうところで勝敗に数字の差が出てしまいがちなのではないかと思料します(まったくの私見ですが)。
 ちなみに、上位者の駒を振るのが振り駒ですが、『ハチワン』で主人公のハチワンこと菅田が駒を振ってるのって今まで一回もないんですよね。これは多分、主人公の物語内における立場、まだまだ上を目指さなきゃダメだよということを暗に表しているのだと思います。いやー、振り駒って奥が深いですね(笑)。

日本将棋用語事典

日本将棋用語事典

【関連】ちょっと卑猥な将棋用語
ハチワンダイバー 1 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 1 (ヤングジャンプコミックス)