『まっ白な嘘』(フレドリック・ブラウン/創元推理文庫)

まっ白な嘘 (創元推理文庫)

まっ白な嘘 (創元推理文庫)

 短編の名手として知られるフレドリック・ブラウンですが、秀逸なアイデアに加え、洒落の利いた会話に軽妙な文章と、まさに名手です。本書はそんなブラウンの手がけたバリエーションに富んだ短編ミステリ作品集です。
(以下、長々と。)
 『笑う肉屋』は雪原に片道しかない足跡、『四人の盲人』は同名の逸話をモチーフにした一種の”見立て”です。『世界がおしまいになった夜』は、世界がおしまいになるという嘘をついた男の話、巡る因果、エイプリル・フール絡みで紹介するのに相応しい作品です。『メリー・ゴー・ラウンド』は悲しい探偵の話、人を乗せずに回り続ける回転木馬の話です。『叫べ、沈黙よ』は、誰もいない森の奥で木が倒れたらそれは無音であろうか? という哲学的命題をモチーフにした作品ですが、シュレディンガーの猫にも似た筋立てがとても好きです。『アリスティッドの鼻』は大事な品をとっさに隠すならどこ? これまた皮肉が利いてます。灯台下暗し、ですね。『後ろで声が』は、『叫べ、沈黙よ』と対をなすかのような作品です。『闇の女』は暗転、『キャサリン、おまえの咽喉をもう一度』は記憶喪失からの回復と謎の解明とがシンクロした作品で、どちらも佳品です。『町を求む』はいかにもショートショートらしい作品なのですが、こうミステリ色の強い作品集の中に混ざると浮いちゃいますね(笑)。『史上で最も偉大な詩』は謎です。カール・マーニーの詩とはいったいどんなものなのだったのでしょうか? 『むきにくい林檎』は、優れたアイデアぞろいの短編集の中にあってストーリーのみで勝負しているという点で異質です。しかし、この重厚さはどうでしょう。『自分の声』は、たいしたアイデアじゃないのが逆に悪意を際立たせますね。表題作『まっ白な嘘』は、嘘をつくものとつかれるものとの立場の逆転(?)が面白いです。『カイン』は、こうくるとは思いませんでした。慈悲深いのか残酷なのか。『ライリーの死』は、ライリーがあまりにも(以下略)。そして最後を飾る『うしろを見るな』は紹介文にもあるとおり、必ず最後に読んで下さい。私は素直に最後に読んだのですが大正解だったと思ってます。
 こんな感じで、各短編をざっと説明してきましたが、一番好きなのは『叫べ、沈黙よ』かなぁ。でも、『四人の盲人』や『世界がおしまいになった夜』、『後ろで声が』も捨て難いです。『うしろを見るな』は変なミステリとして忘れられませんし、傑作ぞろいで順番をつけるのがとても難しいです。ミステリ読みなら必読の短編集だと思いますので、強くオススメします。