私家版2009年海外ミステリ ベスト10

 年末ですので書評サイトらしく一応2009年のベスト海外ミステリなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版です。刊行年数などにかかわらず私が2008年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

戦場の画家

戦場の画家 (集英社文庫)

戦場の画家 (集英社文庫)

 作中で不可能犯罪が起きるわけでもなければトリックが用いられているわけでもないのでミステリとして紹介するのは厳密には妥当ではないのですが、構造(プロット)というものを考える上でミステリ読み的観点からどうしてもオススメしたいので。
【関連】『戦場の画家』(アルトゥーロ・ペレス・レベルテ/集英社文庫) - 三軒茶屋 別館

検死審問ふたたび

検死審問ふたたび (創元推理文庫)

検死審問ふたたび (創元推理文庫)

 証言者の証言によって事件の真相が徐々に見えてくるという検死審問ならではの構成に加えユーモアもふんだんに盛り込まれた知的でお洒落な作品です。真相の意外性だけでなく解決の意外性も”大岡裁き”みたいで面白いです。
【関連】『検死審問ふたたび』(パーシヴァル・ワイルド/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

死せる案山子の冒険

死せる案山子の冒険―聴取者への挑戦〈2〉 (論創海外ミステリ)

死せる案山子の冒険―聴取者への挑戦〈2〉 (論創海外ミステリ)

 エラリー・クイーンのラジオドラマ・シナリオ集第2弾です。ラジオドラマとしての「分かりやすさ」が心掛けられつつも論理の楔がしっかりと打ち込まれています。さすがはクイーンと唸らされる作品集です。
【関連】『死せる案山子の冒険』(エラリー・クイーン/論創社) - 三軒茶屋 別館

ベツレヘムの密告者

ベツレヘムの密告者 (ランダムハウス講談社 リ 5-1) (ランダムハウス講談社文庫)

ベツレヘムの密告者 (ランダムハウス講談社 リ 5-1) (ランダムハウス講談社文庫)

 ベツレヘムという舞台ならではのデスゲーム。真相を明らかにするための論理と生き残りの論理との対比がサスペンス性たっぷりに語られる快作です。凝ったトリックも驚愕の結末もありませんが、作り物ではない世界を舞台とした稀有なデスゲームとして一読の価値ある逸品だと思います。
【関連】『ベツレヘムの密告者』(マット・ベイノン・リース/ランダムハウス講談社文庫) - 三軒茶屋 別館

クライム・マシン

クライム・マシン (河出文庫)

クライム・マシン (河出文庫)

 2006年版「このミステリーがすごい!」第1位にも選ばれた傑作ミステリ短編集の文庫版です。アイデアの光る作品あり捻りの利いた作品あり奇妙な味わいの作品ありとバラエティに富んだクオリティの高い短編集です。
【関連】『クライム・マシン』(ジャック・リッチー/河出文庫) - 三軒茶屋 別館

幽霊の2/3

幽霊の2/3 (創元推理文庫)

幽霊の2/3 (創元推理文庫)

 人気作家の突然の死。現場にいたのは読者や批評家、エージェント、出版社社長といった業界関係者ばかり。事件の容疑者としての関係と出版業界人としての関係が交錯することによって浮かび上がる驚愕の真相。業界ネタが伏線としても有効に機能している傑作です。
【関連】『幽霊の2/3』(ヘレン・マクロイ/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

ジャンピング・ジェニイ

ジャンピング・ジェニイ (創元推理文庫)

ジャンピング・ジェニイ (創元推理文庫)

 ミステリとしてのお約束を逆手に取った作品を書かせたらバークリーの右に出る者はないと思いますが、本書もそんなバークリーらしさが存分に発揮された快作です。
【関連】『ジャンピング・ジェニイ』(アントニイ・バークリー/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

騙し絵

騙し絵 (創元推理文庫)

騙し絵 (創元推理文庫)

 ダイヤの盗難事件と出だしは比較的地味なのですが、そこから関係者が次々と失踪しては意外な事実が少しずつ明らかになっていくというハチャメチャな展開の果てに驚愕の真相までたどり着きます。『騙し絵』のタイトルどおりの結末ではありますが、フランス・ミステリってやっぱりどこか変ですよね(笑)。 
【関連】『騙し絵』(マルセル・F・ラントーム/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

ソフィー

ソフィー (創元推理文庫)

ソフィー (創元推理文庫)

 郷愁たっぷりに過去を語る独白劇(モノローグ)と緊張感に満ちた現在の対話劇(ダイアローグ)が交錯するサスペンス。過去も現在も意外な展開を見せる中で、果たしてどのような結末が待ち受けているのか。哀愁と緊迫感の緩急が利いた独特のサイコドラマとしてオススメです。
【関連】『ソフィー』(ガイ・バート/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

完全なる沈黙

完全なる沈黙(ハヤカワ・ミステリ文庫)

完全なる沈黙(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 被疑者が沈黙を守る中、警官や検察官、弁護士といった人物たちが自らの職責を果たしながら真実を追い求める多角的な視点描写は大岡昇平の『事件』や横山秀夫の『半落ち』を彷彿とさせます。リーガルサスペンスとして実直ながらも非常に好感の持てる逸品です。
【関連】『完全なる沈黙』(ロバート・ローテンバーグ/ハヤカワ文庫) - 三軒茶屋 別館


 今年の海外ミステリには個人的に琴線に触れる作品が多くてとても嬉しい一年でした。また、翻訳ミステリー大賞が今年から新たに立ち上げられて、それを盛り上げるため翻訳ミステリー大賞シンジケートというブログが開設されたのは、今年の海外ミステリを語る上で欠かせない出来事だと思います。翻訳ミステリ業界もいろいろ大変みたいですが、来年も面白い作品にたくさん出会えればいいなぁと期待しています。
【関連】私家版2008年海外ミステリ ベスト10 - 三軒茶屋 別館