私家版2012年SF ベスト10

 年始ですので書評サイトらしく一応2012年のベストSFなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版です。刊行年数などにかかわらず私が2012年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

華竜の宮

華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)

華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)

華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)

華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)

 文庫化早すぎワロタ。第32回日本SF大賞受賞作品です。最新の地球惑星科学の知見をベースに作り上げられている濃密なSF的世界観。そこで描かれている破局は地球環境のみならず「人」という種のかたちにまで及びます。アシスタントAIの視点による1.5人称ともいうべき語りも印象的です。オススメです。
【関連】『華竜の宮』(上田早夕里/ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) - 三軒茶屋 別館

都市と都市

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

 モザイク状に組み合わさった特殊な都市の物語。本書の始まりは殺人事件ですが、本書の主役にして真のテーマは都市です。そんな都市と個人との関係を強調して描き出すために、個と孤独とを描くハードボイルド調の語りが用いられています。SFとしてもミステリとしても楽しめる逸品です。
【関連】『都市と都市』(チャイナ・ミエヴィル/ハヤカワ文庫) - 三軒茶屋 別館

バレエ・メカニック

バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫JA)

バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫JA)

 個人と都市との間のフィードバックによって生まれる幻想。しかしてそれは紛うことなき現実で。繊細にしてしなやかで、優美にして滑稽な機械仕掛けのバレエです。オススメです。
【関連】『バレエ・メカニック』(津原泰水/ハヤカワ文庫) - 三軒茶屋 別館

第六ポンプ

第六ポンプ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

第六ポンプ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 『ねじまき少女』で知られるパオロ・バチガルピ初短編集は、未来はきっと今よりもよくなっているに違いない、なんて安易な幻想を抱くことができなくなってしまっている今だからこそ読んでおきたいディストピア系の短編集です。
【関連】『第六ポンプ』(パオロ・バチガルピ/新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) - 三軒茶屋 別館

盤上の夜

盤上の夜 (創元日本SF叢書)

盤上の夜 (創元日本SF叢書)

 第33回日本SF大賞受賞、第147回直木賞候補作品。囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋といった数々の盤上遊戯を題材に、人間の知性の果てが描かれています。直木賞候補となったのは正直かなり意外なのですが、将棋や囲碁などをそれなりに嗜む者として個人的にはかなり嬉しいトピックです。

南極点のピアピア動画

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

 ピアピア動画という動画共有サイトを全面に押し出すことによって描かれている世界。それは、情報の共有・知のオープン化による価値の創出といったネットの最前線で生じている現象です。そんな最先端の出来事が、近未来を舞台をしながら現実的かつ卑近的なものとして適度な生活感を伴いながら描き出されています。
【関連】『南極点のピアピア動画』(野尻抱介/ハヤカワ文庫) - 三軒茶屋 別館

この空のまもり

この空のまもり (ハヤカワ文庫JA)

この空のまもり (ハヤカワ文庫JA)

 いうなれば『電脳コイル』の先を描いた作品。強化現実技術の発達によって世界中のあらゆる場所と人に電子タグが貼り付けられている近未来を舞台としたニートの架空防衛大臣の活躍をのんびりと、しかしながらスリリングに描いた物語。リアル世界とネット世界との相関関係によって成り立つ現実というこれからの世界のあり方が提示されている社会派SFです。

ペルセウス座流星群 (ファインダーズ古書店より)

 SFというよりも、クトゥルフ的なコズミック・ホラーとでもいうべき連作短編集です。「恋は盲目」といいますが、盲目でいられればそのまま続いていたであろう関係が、図らずも見えてしまった世界観と、知ってしまった価値観とによって変貌を余儀なくされる。そんな作品集です。

宙の地図

宙の地図 (上) (ハヤカワ文庫NV)

宙の地図 (上) (ハヤカワ文庫NV)

宙の地図 (下) (ハヤカワ文庫NV)

宙の地図 (下) (ハヤカワ文庫NV)

 『時の地図』に続くシリーズ2作目。本作では『宇宙戦争』がモチーフとなっていますが、実はやっぱり『タイムマシン』だったりもしたり(笑)。古典を題材に斬新な作品を描く構成力が本作でも存分に発揮されています。

ペンギン・ハイウェイ

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

 第31回日本SF大賞受賞作品。本書は、スタニスワフ・レムの『ソラリス』を読んだ感動から生まれ落ちた作品であって、『ソラリス』がなければ『ペンギン・ハイウェイ』はなかった。とのことで、レム好き、『ソラリス』好きとしては問答無用で推さざるを得ない逸品です。

 ……まあ、世評の高い作品が文庫化するのを待って読めばだいたいこうなるよね的な、なんとも無難というか面白味のないベスト10といいますか(苦笑)。やっぱりもっといろいろ読まなきゃ駄目ですね。
【関連】私家版2011年SF ベスト10 - 三軒茶屋 別館