私家版2009年SF ベスト10

 年末ですので書評サイトらしく一応2009年のベストSFなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版です。刊行年数などにかかわらず私が2009年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

くらやみの速さはどれくらい

 自閉症者と健常者の関係といったノーマライゼーションの問題が、近未来を舞台としながらも企業における経費削減の必要性や治療効果の不確実性、自己決定の限界といった現代的にも切実な問題と絡み合います。自閉病者であるルウの視点で語られる物の見方・考え方も非常に興味深いものですし、多くの方にオススメしたい一冊です。
【関連】『くらやみの速さはどれくらい』(エリザベス・ムーン/ハヤカワ文庫) - 三軒茶屋 別館

ハーモニー

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

 セカイとわたし。公と私。肉体と精神。様々な二元論がハーモニーしながら「わたし」とは何かを問い続けます。第40回星雲賞日本長編部門受賞作にして第30回日本SF大賞受賞作といった評価に違わぬ傑作です。
【関連】『ハーモニー』(伊藤計劃/ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) - 三軒茶屋 別館

ヘミングウェイごっこ

ヘミングウェイごっこ (ハヤカワ文庫SF)

ヘミングウェイごっこ (ハヤカワ文庫SF)

 作者のヘミングウェイについての衒学趣味がそのままSF作品として形になった一作です。文学史の解釈によって歴史の改変・平行世界の創出されるといったドタバタ劇が繰り広げられながらも着地はとてもきれいです。
【関連】『ヘミングウェイごっこ』(ジョー・ホールドマン/ハヤカワ文庫) - 三軒茶屋 別館

ユダヤ警官同盟

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

 主人公の活躍ぶりはハードボイルドものに登場する探偵役をまさに彷彿とさせるものですので、本来なら海外ミステリ枠で紹介すべきようにも思うのですが、ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞といった評価に敬意を表してこちらで。ユダヤ入植問題というデリケートな問題が改変された歴史を舞台とすることで逆に率直に語られているように思います。
【関連】『ユダヤ警官同盟』(マイケル・シェイボン/新潮文庫) - 三軒茶屋 別館

犬は勘定に入れません

 犬と猫に翻弄される時間旅行SFであり過去と現在の両方で展開されるラブコメでもあり因果の収束が堪能できるミステリでもあり、いろんな楽しみ方ができるオススメの逸品です。ただし、『月長石』のネタばれがありますので未読の方はご注意を。
【関連】『犬は勘定に入れません』(コニー・ウィリス/ハヤカワ文庫) - 三軒茶屋 別館

紫色のクオリア

紫色のクオリア (電撃文庫)

紫色のクオリア (電撃文庫)

 クオリア哲学的ゾンビシュレディンガーの猫。観測されるまで確定しない量子の世界。無限に続く平行世界。無限のトライ&エラー。万物理論ライトノベルという枠を超えてSF読みの方にも是非読んで欲しい珠玉の一冊です。
【関連】『紫色のクオリア』(うえお久光/電撃文庫) - 三軒茶屋 別館

不思議のひと触れ

不思議のひと触れ (河出文庫)

不思議のひと触れ (河出文庫)

 ”語りの魔術師”として知られるスタージョンの入門向け短編集です。特に表題作である「不思議のひと触れ」はボーイ・ミーツ・ガールの本質を突いた作品としてオススメです。
【関連】『不思議のひと触れ』(シオドア・スタージョン/河出文庫) - 三軒茶屋 別館

あなたのための物語

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

 死とは何か。物語とは何か。語りえぬテーマについて真っ向勝負を挑んだ真摯な作品だと思います。2009年ベストのSFを挙げろといわれれば、私は迷いなく本書を推します。
【関連】『あなたのための物語』(長谷敏司/ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) - 三軒茶屋 別館

泰平ヨンの航星日記

 レム好きの私としては本書を外すわけにはいきません。SF的アイデアの衝突や暴走といったホラ話にいろいろと考えさせられつつも面白可笑しく楽しめる珍無類の短編集です。
【関連】『泰平ヨンの航星日記』(スタニスワフ・レム/ハヤカワ文庫) - 三軒茶屋 別館

地球保護区

地球保護区 (ハヤカワ文庫JA)

地球保護区 (ハヤカワ文庫JA)

 地球保護とはいったいどういうことなのか。環境問題を地球の問題としてではなく人類という種のライフスタイルの問題として描いている点に好感が持てます。傍若無人なお婆さん(?)や天才の落ちこぼれのクローンといった登場人物たちの掛け合いも楽しいです。
【関連】『地球保護区』(小林めぐみ/ハヤカワ文庫) - 三軒茶屋 別館


 私は一応ミステリ読みを自称しておりますが、振り返ってみれば面白いSF作品にもそれなりに接することのできた一年でした。来年もちょくちょく読んでいければなぁと思います。
【関連】私家版2008年SF ベスト10 - 三軒茶屋 別館