私家版2012年海外ミステリ ベスト10

 年始ですので書評サイトらしく一応2012年のベスト海外ミステリなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版です。刊行年数などにかかわらず私が2012年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

解錠師

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 文庫化早すぎワロタ。2011年のアメリカ探偵作家クラブ(MWA)エドガー賞最優秀長篇賞・英国推理作家協会(CWA)スティール・ダガー賞受賞作品。とはいえ、ミステリというよりもジュブナイルの傑作としてオススメしたい逸品です。
【関連】『解錠師』(スティーブ・ハミルトン/ハヤカワ・ポケット・ミステリ) - 三軒茶屋 別館

死の扉

死の扉 (創元推理文庫)

死の扉 (創元推理文庫)

 古典的名作ディーン・シリーズ一作目が新訳で復活。私的には初読だったので私家版ベストとして選出しました。探偵小説が好きな人のための探偵小説です。ミステリのお約束を意識して皮肉りながらもあえてその路線を歩みつつ、それでいて意外な結末がきちんと用意されているあたり、なるほど傑作だといわざるを得ません。
【関連】『死の扉』(レオ・ブルース/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

罪悪

罪悪

罪悪

 前作『犯罪』に続き、ドイツの高名な刑事事件弁護士である著者が、現実の事件に材を得て書いた犯罪にまつわる15の短篇集です。なんといっても第1話「ふるさと祭り」の後味の悪さがすごいです。この苦々しさが本書全体をずーっと覆い尽くしています。現実と地続きだからこそのやるせなさです。
【関連】『罪悪』(フェルディナント・フォン・シーラッハ/東京創元社) - 三軒茶屋 別館

暴行

暴行 (新潮文庫)

暴行 (新潮文庫)

 「傍観者効果(参考:傍観者効果 - Wikipedia)」という社会心理学用語を生むきっかけとなった「キティ・ジェノヴィーズ事件」を題材とした作品です。「やらない善よりやる偽善」という言葉がありますが、「やらない悪」というのはやっぱりありますよね。
【関連】『暴行』(ライアン・デイヴィッド・ヤーン/新潮文庫) - 三軒茶屋 別館

フランクを始末するには

フランクを始末するには (創元推理文庫)

フランクを始末するには (創元推理文庫)

 1999年英国推理作家協会短編賞受賞作「フランクを始末するには」を含む12作品が収録されている短編集です。幸せとは何か? そんな問いかけを源泉とする「奇妙な味」を堪能できる作品集です。
【関連】『フランクを始末するには』(アントニー・マン/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

迷走パズル

 1936年に刊行された、クェンティンのパズルシリーズ第一作です。第二作『俳優パズル』の方が世評は高そうですが、個人的にはこちらの方が好きです。精神病療養施設を舞台に、アルコール依存症の「信頼できない語り手」が自らを信頼できるようになるまでのお話です。
【関連】『迷走パズル』(パトリック・クェンティン/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

尋問請負人

尋問請負人 (ハヤカワ文庫 NV)

尋問請負人 (ハヤカワ文庫 NV)

 推理によって真実を明らかにするのではなく、尋問(というか拷問)によって真実を明らかにするという、まっとうなミステリ泣かせのミステリです。とはいえ、現実の刑事事件で自白の強要が問題となっているだけに、いろいろと考えさせられます。
【関連】『尋問請負人』(マーク・アレン・スミス/ハヤカワ文庫) - 三軒茶屋 別館

天使のゲーム

天使のゲーム (上) (集英社文庫)

天使のゲーム (上) (集英社文庫)

天使のゲーム (下) (集英社文庫)

天使のゲーム (下) (集英社文庫)

 『風の影』に続くシリーズ2作目は、作家の物語です。逃れられない運命に翻弄されて、物語ではなく宗教を書くことを求められる主人公。作家の神性と人間性とのギャップとそれによって生じる苦悩とが描かれている逸品です。

ディミター

 『エクソシスト』で知られる著者が描いたとある天才的スパイの物語。『エクソシスト』が悪魔祓いの物語だとすれば本書は神祓いの物語、などといってしまうと罰が当たりそうで怖いです(笑)。

特捜部Q ―檻の中の女―

特捜部Q ―檻の中の女― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

特捜部Q ―檻の中の女― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

 これまた文庫化早すぎワロタ。警察小説といえば、最近は複数の事件を並列的に捜査を進めていくことでストーリーが進行していくモジュラー形式のものが多いですが、本書は未解決の事件を捜査する部署という役割が与えられることによって、ひとつの事件をじっくりと捜査することができるようになっています。魅力的なキャラクタによる陰惨な事件の解決。救いがあるのかないのか、いやはや何とも……。

 海外ミステリの話題といっていいかどうか分かりませんが、個人的には武田ランダムハウスジャパン倒産のニュースはそれなりにショックでした。それなりに追っかけておきたいシリーズもあったのに、どうなることやら……orz とにもかくにも、2013年はもっと読書量を増やしたいです。
【関連】私家版2011年海外ミステリ ベスト10 - 三軒茶屋 別館