『謎解きはディナーのあとで』から入る東川篤哉＆本格ミステリー入門

ダ・ヴィンチ 2011年 12月号 [雑誌]

　『ダ・ヴィンチ』2011年12月号ｐ162以下にて「『謎解きはデイナーのあとで』から入る東川篤哉＆本格ミステリー入門」という特集が組まれています。『謎解き〜』ヒットの理由としては女性の読者層をつかんだことが挙げられると思います。その理由として、ｐ169「『謎解き〜』ドラマ化記念対談　桜井翔×北川景子」という対談内での「影山の行動原理って、ようは小学生の男の子が好きな女の子にちょっかいを出すのと同じなんだよね。わざと怒らせて、お嬢様がどういうリアクションするのか待ってる感じ」という指摘に至極納得です。
【関連】『謎解きはディナーのあとで』（東川篤哉／小学館） - 三軒茶屋 別館

謎解きはディナーのあとで

　特集「『謎解きはデイナーのあとで』から入る東川篤哉＆本格ミステリー入門」では、『謎解きは〜』に収録されている第一話から第六話について、それぞれにキーワード「密室と奇妙な死体」「毒殺」「殺人現場」「不思議な一言」「物理トリックと心理トリック」「ダイイング・メッセージ」が抽出されて、それぞれにまつわるいくつかのミステリが紹介されています。
　ミステリに限らず、あるジャンルにおいて一般向けな作品がヒットしますと、とかく玄人からは無視されたり軽視されたりしがちです。ですが、真にそのジャンルに愛着を持つのであれば、その作品のヒットをきっかけにジャンルそのものに興味を持ってもらうように働きかけるのが生産的というものでしょう。そういう意味で、『ダ・ヴィンチ』の今回の特集は非常に有意義なものだと思いますし、興味のある方は是非読んでみて欲しいと思います。
　とはいえ、紹介作品数がちと多すぎるきらいがあります。そこで。この場を使って私家版『謎解き〜』から入るミステリ入門的な本の紹介をしてみたいと思ったり。

賢明な奴隷と間抜けな主人

ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻 (文春文庫)

　「賢明な奴隷と間抜けな主人というコンセプトは、ローマ時代――ひょっとするとそれ以前にさかのぼる。」というのは『ジーヴズの事件簿　才智縦横の巻』（Ｐ・Ｇ・ウッドハウス／文春文庫）巻末の一文からですが、ここではやはりジーヴズをオススメしておきたいです。お人好しですが凡庸な英国貴族のお坊ちゃまと、そんな主人を”しつける”べくトラブルを解決する超有能な執事ジーヴズの関係が楽しいシリーズです。

お金持ちな刑事

富豪刑事 (新潮文庫)

　『謎解き〜』の主人公・宝生麗子は大企業グループ総帥のひとり娘なので私生活はとてもゴージャスで、そんな私生活と刑事という職業に求められるイメージのギャップが楽しいわけですが、そんなギャップが楽しめる作品として『富豪刑事』（筒井康隆／新潮文庫）がオススメです。こちらもやはりとてつもないお金持ちの刑事が主人公なのですが、その財力を捜査にフル活用するのがポイントです。すなわち、金に糸目をつけない常識外れの手法によって事件を解決に導きます。『謎解き〜』とは違った意味での富豪刑事の活躍が堪能できます。

メタなユーモア・ミステリ

名探偵の掟 (講談社文庫)

　初心者向けのガイドブックとしてメタ・ミステリを紹介するのもいかがなものかと思うのですが（笑）、ただ、『謎解き〜』にはミステリのお約束を逆手にとった笑いどころが散見されます。そうした点に興味を持たれた方に対しては、本書は絶好の本だと思います。ミステリのお約束が徹底的に茶化されつつも勉強になる一冊です。

東川篤哉の他の作品に興味のある方に

館島 (創元推理文庫)

もう誘拐なんてしない (文春文庫)

　上記『ダ・ヴィンチ』の特集には「東川篤哉を読み解く50のポイント」という著者への簡易インタビューも収録されていますが、その中において、トリックで一番自信がある作品として紹介されているのが『館島』（東川篤哉／創元推理文庫）です。ノンシリーズものということもあって、これから東川作品を読もうという方にオススメしやすい逸品です。また、やはりノンシリーズもので2012年フジ系新春SPドラマ化が決まっている『もう誘拐なんてしない』（東川篤哉／文春文庫）を予め読んでおくのもよいかと思います。
　もっとも、続編である『謎解きはディナーのあとで　２』が今月既に刊行されてますから、そちらを引き続き追いかけるのも当然ありでしょう。『謎解き〜』のヒットをきっかけに一人でも多くの方がミステリに興味を持っていただけることを私的には嬉しいです。

謎解きはディナーのあとで　２