『江戸・東京 歴史ミステリーを歩く』(三津田信三・編/PHP文庫)

江戸・東京 歴史ミステリーを歩く (PHP文庫)

江戸・東京 歴史ミステリーを歩く (PHP文庫)

 『忌館―ホラー作家の棲む家』など虚実の入り混じったメタな作品を書いてる三津田信三ですが、本書はそんな作者が編集者時代に企画した「ワールド・ミステリー・ツアー13」という全13巻のシリーズのうち第4巻「東京篇」を基にして新たに編集されたものです。文庫化に際して、必要に応じて新しい情報などを各執筆者に加筆修正してもらったり、元の写真は大幅にカットするが逆に地図は充実させる、といった編集が行われている、とのことです(本書「はじめに」参照)。
 「第1章 東京の将門伝説を巡る 加門七海」「第2章 四谷怪談の真相に迫る 村上健司」「第3章 岡本綺堂の怪談に震える 島村奈津」「第4章 東京・妖怪お化けツアーを歩く」「第5章 江戸の捕物と拷問の世界を知る 伊能秀明」「第6章 妖怪博士の妖怪庭園に遊ぶ 千葉幹夫」「第7章 乱歩の東京幻想空間を彷徨う 三津田信三」「第8章 お化け建築家の物の怪を探す 青木祐介」「古本屋探偵神田神保町に現る 紀田順一郎」「第10章 謎の大江戸線、首都の地下網を行く 秋庭俊」といった内容・執筆者となっています。
 編集者への興味で本書を手に取れば、やはり「第7章 乱歩の東京幻想空間を彷徨う」で語られている乱歩作品のメタフィクション的仕掛けへの考察がそのまま三津田作品にも当てはまってきて、まさにメタとメタとが交錯する不思議な感覚を堪能することができます。
 また、個人的に意外な収穫として特に面白く読めたのが「第10章 謎の大江戸線、首都の地下網を行く」です。私も大江戸線は何度か利用したことがありますが、かなり意味不明な路線ですよね(笑)。そんな意味不明さについてさらりと触れつつ、さらに普通に利用してるだけだとなかなか気づかない大江戸線の特殊性や不思議さについていろいろと教えてくれています。鉄ヲタの方が読めばまた違った感想が出てくるのかもしれませんが、素人的にはなかなか面白かったです。
 平将門伝説や四谷怪談など割とマニアックな場所も紹介されていますので、基本的には東京近辺に住んでる方向けのガイドブックだと思いますが、第6章で紹介されている”妖怪庭園”こと哲学堂公園神田神保町などは、遠方から通ってみる価値のある場所だと思います。
 アニメの舞台探訪のことを「聖地巡礼」などといったりしますが、ミステリ読みの舞台探訪はどちらかといえば聖地というよりも魔都という方が相応しいような気がしないでもないです。とにもかくにも物語世界をより深く旅するために現実世界を旅してみるのもたまにはよいと思います。