ハチワン=081=オッパイと読んでしまう人のための『ハチワンダイバー 20巻』将棋講座

ハチワンダイバー 20 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 20 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 20』(柴田ヨクサルヤングジャンプ・コミックス)をヘボアマ将棋ファンなりに緩く適当に解説したいと思います。

谷生対的当戦

●第1図(p33より)

 『ハチワン』ではおなじみの早石田の仕掛けですが、▲7四歩と突っかけてから△同歩に▲3八銀。早石田は大駒交換の乱戦になりやすいですから、▲3八銀と上がることで陣形の隙を減らしつつ自玉を2八まで移動させて美濃囲いに囲う狙いを持った手ですが、確かに図々しい手です。なぜならその2八の地点がぽっかり空いてるからです。そこで的当は直接的にとがめにいきます。△8八角成▲同銀と角交換して△2八角
●第2図(p33より)

 狙いはもちろん△1九角成。当然先手にも用意の手段があります。▲5五角と同じく香車取りの角打ち。△2二銀に▲8二角△同銀と飛車角交換して▲1八飛と角取りに自陣飛車を打ちます。もちろん後手もその手は承知で△3九角打とつなぎます。
●第3図(p33より)

 狙いは△1九角成▲同飛△2八角成です。▲同金とされても△同角成から△2八金や△5七馬からの馬の活用といった狙いが残ります。この手に的当は期待していたわけですが、谷生がここで用意の一着を放ちます。▲3六歩です。
●第4図(p34より)

 この手は前述の△1九角成▲同飛△2八角成の狙いに対して、▲3七角という手を用意しています。こうなってしまうと後手の二枚の角はどちらかが動くとどちらかが取られてしまうので活用するのが難しいです。対する先手は3九の角はいつでも取れますし7八の飛車は動かせますし、5七の地点を守ってから▲3七銀とすれば角を二枚とも取れそうです。総じて先手に分がある局面だといえます。しかも先手研究十分の局面で持ち時間なし一手10秒という条件も後手にとって厳しすぎます。まんまとはめられたというべきか、油断が過ぎてはまってしまったというべきか。こういうことがあるので将棋は恐ろしいです。
●第5図(p37より)

 投了図。▲同歩しかありませんが△6九馬(龍)で詰んでしまいます。ゆえに投了もやむなしです。

そよ対卑弥呼その1(千日手

●第6図(p53〜54より)

 話の流れ的には卑弥呼の方が先手っぽいですが、ここでは便宜上そよを先手にしましたのであしからず。また、盤面・持ち駒についても一部推測が混じってますのでこちらもあしからず。肝心なのは先手玉の周辺です。
 作中ではここで先手が3九に、後手が4七に金を打ち合って千日手となっています。千日手とはp49の欄外にあるとおり将棋においては同一局面が4回出現することで、そうした局面が出現した場合には引き分けとなります。その後、プロの棋戦などでは持ち時間の調整を行った上で先手と後手を入れ替えて再度指し直されることが多いです。
 ところが、千日手のルールには大事な例外があります。それは連続王手による千日手の場合には王手をかけていた側が負けになるというものです(【参考】千日手 - Wikipedia)。で、この本局の場合には、第6図以下、△3八金▲同金△4七金▲3九金△3八金▲同金△4七金▲3九金……という手順が繰り返されてのものだと思いますが、△3八金が王手となっています。なので、一見すると連続王手のように思われるかもしれませんが、手順の途中の△4七金が王手ではないために連続王手には当たりません*1。ややこしいですね(笑)。

そよ対卑弥呼その2

●第7図(p141より)

 先手そよの居飛車に後手卑弥呼ゴキゲン中飛車。先手は角交換(いわゆる「丸山ワクチン」)からダイヤモンド美濃、後手は片銀冠に組んで互いに角を打ち合った、という感じでしょうか。
●第8図(p153より)

 第7図から▲8七銀△4六角▲4八飛△6四角。先手はさらに銀冠に囲おうとして、その隙に後手も動いてさらに先手も動く。互いの飛車角働きの場を求め合って、いよいよ開戦です。
●第9図(p158より)

 堅陣の先手玉と裸一枚の後手玉。硬さは確かに対照的です。p154で「固ってェ」といわれた▲7九歩ですが、このように最下段に打つ歩のことを「底歩」といいます。特に金の底の歩は固いとされていて、「金底の歩岩より堅し」という格言もあるくらいです。もっとも将棋はバランスのゲーム。守りに駒を使えば攻撃に使う駒は減ります。後手玉は確かにペラペラですが、代わりに「広さ」がありますし持ち駒には大駒が二枚あります。
 以下、▲4六桂△7五歩▲5四桂△8六歩に▲6三歩(第10図)。
●第10図(p159より)

 銀頭の手裏剣に構わず歩の手裏剣のお返し。後手玉の逃げ道の封鎖を図ります。後手△8七歩と取り込んで▲同金に△3八飛と王手。▲9七玉とかわした手に対し後手もこのタイミングで△6一玉と早逃げ(p160)。「名人は危うきに遊ぶ」という言葉を思わせるギリギリのかわしです。以下、▲6二桂成△同角▲同歩成△同玉▲5三銀△6三玉▲8五桂(第11図)。
●第11図(p162より)

 後手玉には▲7三桂成△5四玉▲6三角△6五玉▲6六金打の詰めろがかかりました。ただ、ここでそよは「これで受けナシよっ!!!」といってますが、本当に受けナシ(必死)かは疑問で、△8三金などとすれば詰めろほどけますから正確ではありません。ですが、卑弥呼はこの局面から一気に決めにいきます。△8八銀の王手です。
●第12図

 この△8八銀で長手数で変化は多岐に渡るものの、どうやら詰んでます。ただ、△8八銀▲8六玉△5九角▲6八歩に△2六龍*2としていますが、即詰みではなくて、△5六角なら詰みません。もっとも、ここに角を使ってしまいますと、前述の後手玉への詰めろがなくなってしまいますし、△8四金とかわされると、以下▲8八金として銀を外しても△5六歩と角を取られてジリ貧ですから大勢に影響はないでしょう。本譜は▲5六角ではなく▲5六歩でしたが、これは△同龍(p163)以下(1)▲7五玉なら△6五龍▲8六玉△7五銀まで。(2)▲同金なら△6八角成▲7五玉△7四歩▲同銀不成△同金▲6六玉△7五銀▲5五玉△5四銀まで。(3)▲7六角なら一例ですが、△6八角成▲同金△7七銀打▲同金上△同銀不成▲同金△8八飛成▲8七銀△7七龍▲同玉△7六歩▲8六玉△7七角▲9七玉△8八角成▲同玉△7七金▲9七玉△8七金▲同玉△6七龍▲8六玉△8七金▲7五玉△6五龍までの詰みです。ゆえに投了もやむなし……って、他にもいろいろ変化があって難解すぎワロタ。


 以上ですが、何かありましたら遠慮なくコメント下さいませ。ばしばし修正しますので(笑)。



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柴田ヨクサル・インタビュー
『ハチワン』と『ヒカルの碁』を比較してみる

*1:【参考】『まじかる将棋入門』(椎名龍一後藤元気イカロス出版)p156〜157より。

*2:△2六龍ではなく△6八同角成なら詰みです(多分)。もっとも、変化は多岐ですし私には難し過ぎますが。ソフト様様です(笑)。