『神のみぞ知るセカイ』8巻9巻将棋講座

神のみぞ知るセカイ 8 (少年サンデーコミックス)

神のみぞ知るセカイ 8 (少年サンデーコミックス)

神のみぞ知るセカイ 9 (少年サンデーコミックス)

神のみぞ知るセカイ 9 (少年サンデーコミックス)

 『神のみぞ知るセカイ』(若木民善/少年サンデーコミックス)は、ギャルゲーの天才・桂木桂馬が、地獄からやってきた少女エルシィの依頼を受けて、駆け魂を捕獲するために駆け魂に取り付かれた少女を”攻略”するというラブコメ漫画です(参考:神のみぞ知るセカイ - Wikipedia)。で、8巻・9巻収録のFLAG.76からFLAG.79までは、将棋少女・榛原七香がヒロインのお話となっております。なので、例によってヘボアマ将棋ファンなりに緩く適当に解説します(HoneyDippedは作者のブログです)。

11/24:FLAG76「桂の高飛び歩の餌食」 - HoneyDipped

 「桂馬の高飛び歩の餌食」は将棋の格言で、桂馬は頭が丸い駒(=前に進めない)で後戻りもできないのでむやみに跳んでしまうと歩に取られてしまうという意味です。で、桂馬は将棋の駒のひとつですが、桂馬という名前は将棋から来た名前ではなく、「ゲーマー」から来た名前とのこと。その発想はありませんでした(笑)。
 ちなみに、舞校将棋部部長・田坂三吉の名前の元ネタは阪田三吉(参考:阪田三吉 - Wikipedia)ですので参考まで。

12/1:FLAG77「王飛近づくべからず」 - HoneyDipped

 「玉飛接近すべからず」。これも将棋の格言で、取られたら負けの玉と攻めの主力の飛車。ともに価値の高い駒同士が近づいている形は両方を同時に狙われてしまう悪形なので避けるべきである、という意味です。もっとも、近年では藤井システムに代表される例外も多々ありますが……。
*1
 持ち駒が一部不明なので、余った駒はすべて先手(七香)の持ち駒ということにしましたが、図で先手玉は詰んでます。図以下▲7七玉△7八金▲6七玉△6八飛成まで、です。
 なお、この将棋は銀河戦の男性棋士と女性棋士の対局が元になっているとのことです。具体的な元棋譜をご存知の方がおられましたらご教示いただければ幸いです。コメント欄にてご教示いただきましたが、銀河戦矢内理絵子対大島映二戦が元棋譜です。
【参考】将棋の棋譜でーたべーす:2008年9月26日銀河戦矢内理絵子対大島映二戦

12/7:FLAG78「寄せは俗手で」 - HoneyDipped

 「寄せは俗手で」。これまた将棋の格言です。寄せとは終盤において相手の玉を詰ませるための攻め方のことですが、そういうときは奇を衒った手よりも平凡な手・俗手が好手になりやすい、という意味です。ちなみに、俗手に「ぞくて」とルビが振ってありますが(9巻p22)、正しい読み方は「ぞくしゅ」ですのでご注意を。ついでに、9巻p23の七香のセリフ「二人とも定跡とは全然違う打ち方や。」とありますが、将棋は”打つ”ものではなく”指す”ものです。将棋では持ち駒を盤上に使う場合のみ”打つ”といいますが、基本的には”指す”です。某巨大掲示板の将棋板で”将棋を打つ”などと書いたら低級扱いされること間違いなしですのでご注意を。
 桂馬対ディアナ戦は第23期棋聖戦五番勝負第4局:米長邦雄棋聖対内藤國雄八段戦が元ネタとなっています*2
●第1図(9巻p22より)

 元棋譜情報を元に再現。△ツノ銀中飛車対▲棒金という今ではほとんど見ることのないクラシカルな戦いです。
●第2図

 この局面から△5五龍(!)▲7五角という9巻p23〜24の応酬があります。△5五龍は先手に▲同龍と取らせることで先手の龍を移動させて△8六桂を実現させようという狙いです。それを察知した桂馬は龍を取らずに△7五角と王手でかわすことで手番を奪います。ですがディアナに適切に応対され逆に猛攻を浴びることになります。
●第3図(9巻p26より)

 △9八角で先手玉は詰んでいます。△9八角以下、▲同香△同金▲同玉△9七香▲8九玉△7七桂不成▲同銀△9九飛まで、です。
 ちなみに、盤面に不明な点が多いので再現はしませんでしたが、ディアナ対桂馬戦は昔の棋聖戦が元ネタとのことです。具体的な元棋譜をご存知の方がおられましたらご教示いただければ幸いです。
 9巻p31の会話に出てくる鬼殺しとパックマンはともに将棋の奇襲戦法です。
●鬼殺し

 『しおんの王』や『ハチワンダイバー』にも出てきてますのでご存知の方も多いかと思われますが、いきなり桂馬がぴょんぴょん跳ねていくのが鬼殺し特有の指し方です。受け方を知らないと酷い目に遭わされる恐ろしい戦法です。具体的には、このあと△8五歩▲6五桂と進んだときに、△6二金と受ければ鬼殺しを完封することができます。他愛もないといえばそれまでですが、この△6二金を知らないと痛い目を見続けることになります(参考:鬼殺し (将棋) - Wikipedia)。
パックマン

 2手目△4四歩。先手から見ればこの歩は▲4四同角でパクッと取れますが(だからパックマン)、取ってしまうと△4二飛から力戦に持ち込まれるという奇襲戦法です。もっとも、正確に指せば先手がよいとされていますが、力戦だけに経験値がものをいうこともあるので油断がなりません(参考:4四歩パックマン - Wikipedia)。

12/20:FLAG79「三桂あって詰まぬことなし」 - HoneyDipped

 「三桂あって詰まぬことなし」。またまた将棋の格言です。終盤の寄せで桂馬が三枚あれば詰まないことはない、という意味ですが、実際は詰まないことが多かったりもします(笑)。桂馬はトリッキーな駒で便利なときは便利ですが不便なときは不便で、それでも三枚もあれば使いようによっては相手玉を詰ますことができるかもよ?くらいの意味で理解しとくといいかもしれません。
 七香対ディアナ戦は少し詳しく解説しておきます。
*3
 七香の王様の守りは角と飛車のみで、しかもその角の頭には後手の銀がいます。まさに絶体絶命ですが、まだかろうじて詰んではいません。その一瞬の間隙に放たれた▲1五角。
*4
 作中ではこの角打ちは攻防に利いているとされていますが、実際には防御にはそんなに役立ってはいないと思います(そういう展開もあるのかもしれませんが……)。とはいえ、攻めとしては実に厳しい狙いを持った一手です。ここでディアナが指した(と思われる)△3八歩がポカだと思われます。この手は先手玉に対して詰めろになっていますし▲同飛なら飛車の利きが逸れて後手玉が安全になります。ですが、実は後手玉は非常に危険な状態にありました。ここは△3八歩ではなく△5三銀として自玉を安全にしておくべきだったと思います。なぜなら、△3八歩を相手にせずに▲5一金からの寄せが炸裂してしまうからです▲5一金以下、△3一玉▲4二銀△2二玉▲2三銀成△同金▲同飛成△同玉▲2四歩△3二玉▲3三金。
*5
 すでに後手玉は詰んでしまっています。▲3三金以下、△同桂▲2三歩成△4二玉▲5二歩成△同飛▲3三角成△5三玉▲5二金△同玉▲4二飛△5三玉▲5四銀△同玉▲4三飛成△6四玉▲4六角まで。ゆえに投了もやむなしです。
 ちなみに、この将棋には元棋譜があります。1986年2月3日王将戦中村修中原誠戦ですので参考まで。
【参考】将棋の棋譜でーたべーす:1986年2月3日中村修対中原誠戦



 以上ですが、何かありましたら遠慮なくコメント下さい。ばしばし修正しますですー。

*1:9巻p11より。

*2:Twitterにてitumonさんにご教示いただき、その情報に基づきまして本記事を改稿させていただきました。どうもありがとうございます(ペコリ)。

*3:9巻p41より。

*4:9巻p43より。

*5:9巻p47より。