千澤のり子『シンフォニック・ロスト』講談社ノベルス

シンフォニック・ロスト (講談社ノベルス)

シンフォニック・ロスト (講談社ノベルス)

なんとも感想に困る小説です(笑)。

北園中学吹奏楽部2年、泉正博。
ホルン奏者の自分の夢は一つ「うまくなりたい」。
それだけを目指しひたすら吹く。“夢の舞台”演奏会はもうすぐ……。
だけど部内で囁かれていた「カップルができると片方が死ぬ」という噂通りに先輩が謎の死を遂げてしまった。
恐怖で部員たちの気持ちはバラバラ、音楽どころじゃない。
それどころか皆の疑いの目は、死体を発見した自分に!?
講談社特集ページよりあらすじ)

ホルンが主人公のミステリー小説と言えば、古野まほろ『天帝シリーズ』や初野晴ハルチカシリーズ』と、「なんでまたわざわざホルンを・・・」な感じがしないでもないですが、本書、『シンフォニック・ロスト』もまた、ホルンが主人公です。
しかしながら、作品の色としては先行2作品とうって変わる、まさに「暗黒青春小説」。*1
『シンフォニック・ロスト』では、冒頭から憧れていた先輩に陰で「気持ち悪い」と言われ、先輩の卒部で自分に回ってきたソロパートが下手だという理由でおろされ、あまつさえ卒部した先輩がやってきてソロを奪われるという、吹奏楽経験のある喪男だったら心折れること請け合いです。
実際、フジモリも心の古傷をえぐられながら休み休み読んだぐらいですよ(笑)。
先輩の死によってバラバラになる吹奏楽部、そして新たなる殺人が・・・とフォーマットはミステリですが、主人公が探偵するわけでもなく、鬱々としながら部活動を淡々としていくという物語の流れとしては、ミステリ部分を期待する人はやや肩すかしを食らうかもしれません。
読後も、いろいろな意味でもやもやした気分が若干残りましたし、この小説にカタルシスを求めてはいけないかと事前忠告したくなります(笑)。
青春の暗黒面を容赦なく削る、良い意味であまり人にはお勧めできない一冊でした。
【ご参考】
古野まほろ『天帝のはしたなき果実』講談社ノベルス
初野晴『退出ゲーム』角川文庫

小説すばる 2010年 05月号 [雑誌]

小説すばる 2010年 05月号 [雑誌]

以下、既読者限定で。
フジモリは幸福にも事前情報なしでこの小説を読みましたので、いろいろな意味で予想を裏切られましたが、それでも最後のどんでん返しは「???」でした。正直、うまく機能していないような気がしました。いちおう自身の整理のためにまとめた表があるのでほとぼりが冷めたら追記する予定です。
とはいうものの、細かい話ですが、(ネタバレのため伏字ココカラ→)コンタクトレンズやCD録音が当時あったのか(←ココマデ)がすごく気になったのですが。。。
そういう意味では、ミステリ部分は正直いまいちだったと思います。まあ、ミステリ部分が不完全だからこそ、読後のもやもや感が増幅され、「暗黒青春小説」として良いスパイスになっているのかな、と思われます。

*1:「暗黒青春小説」というネーミングは小説すばる2010年5月号での特集から引用しています。これについては別記事で取り上げたいなぁ、と思っています。