小説すばる「暗黒青春小説特集」

小説すばる 2010年 05月号 [雑誌]

小説すばる 2010年 05月号 [雑誌]

千澤のり子『シンフォニック・ロスト』のプチ書評で、この小説を「暗黒青春小説」と称しましたが、「暗黒青春小説とは何ぞや?」という幸せな方もいらっしゃると思いますので(笑)、補足的に紹介を。
小説すばる2010年5月号にて、「青春小説特集」のひと枠として、「暗黒青春小説」が取り上げられていました。

明るい思春期を送れる人なんて一握り、
青春は基本的に鬱屈に満ちたものではないでしょうか。
キラキラしていない青春を送っている(いた)すべての人に贈ります。

とタイトルページに書かれている通り、狭義には鬱屈した「暗黒な」青春を描いた小説を特集していました。
「暗黒な青春」という意味では、小説そのものが暗黒な桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』西尾維新クビシメロマンチスト』も該当するかもしれませんが、「青春」を暗黒なエピソードで書くという意味で、フジモリ的にはやや外れている感もします。
まさに「暗黒だった青春期」そのものを描く、該当する人間にはトラウマをえぐることこの上ない、という小説と定義すると、意外と該当小説がないようにも思えます。・・・いやなブルーオーシャンだなぁ。
例を挙げろ、というと難しいですが、米澤穂信ボトルネック』などですかね。森見登美彦『太陽の搭』なんかも、あの文体と作者のセンスでコミカルに仕上がってますが、一歩間違えば暗黒青春小説ど真ん中ですよ。
特集では、『15×24』の新城カズマと『冷たい校舎の時は止まる』の辻村深月が対談しています。
これまた、暗い輝きに満ちた対談です。

新城 オタクというアイデンティティにすがって居場所を確保するのと、本当に好きなことに没頭して、結果的にオタクとみなされて青春時代を過ごすのは、似て非なるものだとは思います。オタクと呼ばれる人たちも、本当にそのジャンルに没頭している人と、ある意味ポジション的にそこを選んでいる人とでは、楽しさはぜんぜん違うと思いますよ。
(P238)

ブックガイドとしては、千野帽子豊崎由美米光一成らが「友達ゼロ」「考えすぎ」「非モテ・童貞」「オタク」などこれまた鬱屈としそうなキーワードで暗黒青春小説を紹介しています。
青春小説というと明るい面ばかり目立ちますが、リア充の陰に、「リア充を”リア充”と揶揄してコミニュケーションすることもできない」鬱屈した青春を送る(送った)人もいるわけで、こういった切り口(カテゴライズ)で小説を読むのも面白いなぁ、などと思ったりしました。
【ご参考】 フジモリのプチ書評 千澤のり子『シンフォニック・ロスト』講談社ノベルス