『”文学少女”と恋する挿話集 3』(野村美月/ファミ通文庫)
- 作者: 野村美月,竹岡美穂
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2010/04/30
- メディア: 文庫
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挿話集とありますが、本書は本編の前日譚と後日譚も多く含まれていて、むしろ本編を挿み込むような構成になっています。後日譚というのは、ともすれば本編の興をそぐものになりかねませんが、本書の場合には、あくまで本編内で明かされている事柄の補足・肉付けに基本的にはとどまっています。
本書の前半は心葉と遠子の日常と、「水妖」を沙代の視点から除いたエピソードだったり。一番印象に残るのは、やはり牛魔王でしょう。2作目収録のお話の完結編になりますが、コミカルな展開でありながら牛園の人柄のよさが目いっぱい描かれた結末には心打たれるものがあります。反面、その展開の裏には遠子の誤解というか誤読があるわけで、しかしそれが天然なのか計算なのかは遠子の日ごろの書物についての読解力を考えると何だかモヤモヤしてきたりも。うーむ……。
「歌姫」と「天使」については、ちと語りにくいです。許さなければならないとは思うのですが、許されてはいけないとも正直思います。あと、こんなに早く許されるものなのか、という散文的な疑問も。私の悪い癖ですが(苦笑)。
後半には千愛が学校の先生になっていて、そんな彼女の先生ぶりが仔鹿という生徒の視点から描かれていたり、千愛の視点から描かれていたり。『人間失格』は”文学少女”1巻の元ネタですが、そのモチーフが千愛の中でようやく消化・完結されたお話です。
学校という同い年の仲間に囲まれた空間は、実のところ孤独というものを一番感じやすい空間なのかもしれません。千愛が学校の先生になったというのは最初は意外に思ったのですが、そう考えると納得が行くように思えてきました。周囲と馴染めず価値観を共有できず、もしかしたら人間失格なのではないかと思う自分。ですが、そうした苦悩というものは程度の差こそあれ、誰もがふと思うことなのではないでしょうか。お世辞にも読み心地も読後感もよいとはいえない『人間失格』が今も若者の共感を呼び読み継がれているのもそうしたことの表れだといえるでしょう。
人はどこまで行っても孤独な生き物です。ですが、孤独と孤立は違います。自分の本心とは違うかもしれないけど、いや、そもそも自分の本心が何かが分からないかもしれないけれど。それでも、誰かとつながりたくて、あるいは、ただ孤立したくないという消極的な気持ちであったとしても、そこから生まれてくるもの、感じるものは本当のものと成り得ます。そうしたものを大切にしていくなかで、自分を認めることができる瞬間が訪れることがあれば、それはとても素敵なことだと思います。
シリーズもあと3冊を残すのみとのことですが、寂寥の感慨すらも何故だか貴重の思えてきます。物語が終わってしまうのは寂しいですが、終わるからこその物語でもあります。残り3冊の刊行を楽しみに待つことにします。
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