私家版2010年海外ミステリ ベスト10

 年末ですので書評サイトらしく一応2010年のベスト海外ミステリなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版です。刊行年数などにかかわらず私が2010年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

閉じた本

閉じた本 (創元推理文庫)

閉じた本 (創元推理文庫)

 去年の12月に刊行された本ですが、あくまで私家版ベストなので。会話文と独白のみで地の文がないという特異な構成で語られる緊迫の物語。盲目の作家からの視点による語りは、文字によってのみ情景が読者に伝えられる小説という表現方法の魅力と怖さを浮かび上がらせます。
【関連】『閉じた本』(ギルバート・アデア/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

殺す者と殺される者

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)

 去年の12月に刊行された本ですが(ry。今となってはありがちなトリックですが、古典で既にここまで描かれているというのには驚かされます。さらには、それが通過点にしか過ぎないという展開には戦慄させられました。古典の一言で片づけるわけにはいかない古くて新しい必読書です。
【関連】『殺す者と殺される者』(ヘレン・マクロイ/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

ポーカーはやめられない

 ありそうでなかったポーカー・ミステリのアンソロジーです。ポーカーというげゲームはアメリカでは私たちの想像以上に人気なのだそうで、そんなポーカーが持つ娯楽性・犯罪性・ゲーム性がミステリと相性がよくないわけがありません。掛け値なしにオススメの一冊です。
【関連】『ポーカーはやめられない』(オットー・ペンズラー編/ランダムハウス講談社文庫) - 三軒茶屋 別館

兄の殺人者

兄の殺人者 (創元推理文庫)

兄の殺人者 (創元推理文庫)

 ディヴァイン枠。毎年やってると(ry。地に足の着いたケレン味のない堅実な作りでありながら、ミステリ読みを飽きさせない工夫が凝らされているのはさすがです。人物描写が丹念なのでミステリ読み以外にもオススメしやすいのも高ポイントではありますが、お世辞にも後味がよいとはいえないのがマイナスだったりも(笑)。
【関連】『兄の殺人者』(D・M・ディヴァイン/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

我らの罪を許したまえ

我らの罪を許したまえ

我らの罪を許したまえ

 非常に焦点の見えにくいホワットダニットなミステリですが、その中心にあるのは宗教というべきでしょう。宗教と犯罪、宗教と科学、宗教と歴史、そして宗教と真実。とても風変わりでお世辞にも万人向けとは言い難いですが、私は決して嫌いじゃないです。
【関連】『我らの罪を許したまえ』(ロマン・サルドゥ/河出書房新社) - 三軒茶屋 別館

カーデュラ探偵社

カーデュラ探偵社 (河出文庫)

カーデュラ探偵社 (河出文庫)

 吸血鬼が探偵にして主人公というアイデアだけで傑作であることが約束されているハードボイルドな短篇集です。人間の良識もミステリとしてのお約束もさらりとすり抜けるユニークな物語です。ノンシリーズの短編も傑作ですし、非常にクオリティの高い作品集です。
【関連】『カーデュラ探偵社』(ジャック・リッチー/河出文庫) - 三軒茶屋 別館

音もなく少女は

音もなく少女は (文春文庫)

音もなく少女は (文春文庫)

 本書はあまりにも重い物語で、だからこそ、ミステリというカタカナ言葉で括ることによって読者を獲得する手法が有効なのだと、そんなことを考えてしまうくらいに重い物語です。音のない静かな世界での殺人物語は当時の世相をも背負って今に訴えかけてきます。
【関連】『音もなく少女は』(ボストン・テラン/文春文庫) - 三軒茶屋 別館

愛おしい骨

愛おしい骨 (創元推理文庫)

愛おしい骨 (創元推理文庫)

 振り返ってもイザベルのツンデレばかりが思い起こされますが(笑)、真面目に振り返れば、ミステリとは論理性を大切にするジャンルだからこそ非論理的な存在を許容できなくてはならなくて、本書はそんな奇人変人たちを受け入れるコヴェントリーという町の寛容さを描いた物語だといえます。
【関連】『愛おしい骨』(キャロル・オコンネル/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

輝く断片

輝く断片 (河出文庫)

輝く断片 (河出文庫)

 SF作家として知られるスタージョンのミステリ色の強い作品が集められた短篇集です。とはいっても、ミステリを直接的に書いた作品というわけではありません。人を殺すとはどういうことか、とか、人とは何か、とか殺意とは何か、とか、そういったミステリでは蔑ろにされがちな点にこだわりが見られるのがスタージョンらしいです。
【関連】『輝く断片』(シオドア・スタージョン/河出文庫) - 三軒茶屋 別館

ベルファストの12人の亡霊

ベルファストの12人の亡霊 (RHブックス・プラス)

ベルファストの12人の亡霊 (RHブックス・プラス)

 かつて自らのテロ行為によって殺害された被害者たちの亡霊が指図するがままに、かつての仲間たちを次々と殺していく殺人者が主人公のお話です。北アイルランド紛争を背景に描かれる殺人の連鎖は、逆説的に「偽りの平和」がいかに奇跡的なものであるかを訴えているといえます。
【関連】『ベルファストの12人の亡霊』(スチュアート・ネヴィル/RHブックス・プラス) - 三軒茶屋 別館


 今年は例年までよりも読書量が減ってしまいまして、そのしわ寄せが海外ミステリとSFにきてしまっています。なので、上記ベスト10について、個々の作品の選択についてそれほど不満があるわけではないのですが、総合的にはもっとあれこれ迷い悩んだ上で決めたかったなぁというのが本音です。評判よさ気な『ラスト・チャイルド』や『ファージング』三部作(これはSFかも?)なども本年中に読んでおきたかったですが、来年のお楽しみということにしとくです。
【関連】私家版2009年海外ミステリ ベスト10 - 三軒茶屋 別館