私家版2010年国内ミステリ ベスト10

 年末ですので書評サイトらしく一応2010年のベスト国内ミステリなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版です。刊行年数などにかかわらず私が2010年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

サクリファイス

サクリファイス (新潮文庫)

サクリファイス (新潮文庫)

 2008年本屋大賞2位。ロードレースの魅力と面白さが存分に描かれている一方で、ロードレースにおけるエースとアシストの関係はミステリにおける探偵とワトソン役の関係になぞらえて把握することができます。スポーツ小説としてもミステリとしても一級品の名作です。
【関連】『サクリファイス』(近藤史恵/新潮文庫) - 三軒茶屋 別館

密室キングダム

密室キングダム (光文社文庫)

密室キングダム (光文社文庫)

 とにかく分厚い! 1200ページを超えるボリュームで描かれているのはタイトルに偽りなく密室、密室、また密室。とにかく密室にこだわった逸品。小説としては珍品かもしれませんが、ミステリとしてはまさに王道です。
【関連】『密室キングダム』(柄刀一/光文社文庫) - 三軒茶屋 別館

五声のリチェルカーレ

五声のリチェルカーレ (創元推理文庫)

五声のリチェルカーレ (創元推理文庫)

 昆虫の擬態や音楽の技法といった薀蓄を交えつつミステリの読み方・楽しみ方といったものを謳い上げ、その上でトリックまで仕込むという凝った趣向が用いられています。作品を読む上での視点の倍率を調節することで違った見方を楽しむことができることを教えてくれる一冊です。
【関連】『五声のリチェルカーレ』(深水黎一郎/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

告白

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

 2009年本屋大賞大賞(1位)受賞作を2010年には文庫で読めちゃうのですから、私のような単行本で新刊を読むという流れに完全に乗り遅れてしまった人間にとってはありがたいことです(笑)。酷薄な告白が連ねられていくことで紡がれる物語。少々悪趣味ながらも面白さは折り紙つきです。
【関連】『告白』(湊かなえ/双葉文庫) - 三軒茶屋 別館

首無の如き祟るもの

首無の如き祟るもの (講談社文庫)

首無の如き祟るもの (講談社文庫)

 三津田信三枠。毎年やってると個人の好みが明らかになっちゃってどうしても作家枠ができちゃいますね(苦笑)。ホラーとミステリの融合。メタミステリとしての趣向。そうした困難な課題に毎回挑み、高いレベルで結実させる筆力には感服する他ありません。
【関連】『首無の如き祟るもの』(三津田信三/講談社文庫) - 三軒茶屋 別館

パルテノン アクロポリスを巡る三つの物語

パルテノン (実業之日本社文庫)

パルテノン (実業之日本社文庫)

 柳広司枠。毎年やってると(ry。実業之日本社文庫創刊というのも地味に重要なトピックといえるでしょうか。解釈の多様性を媒介とすることで歴史小説としてもミステリとしても面白い作品になっています。三つの物語という構成に三権分立や真・善・美といった国家や芸術のあり方が盛り込まれた傑作です。
【関連】『パルテノン アクロポリスを巡る三つの物語』(柳広司/実業之日本社文庫) - 三軒茶屋 別館

聯愁殺

聯愁殺 (中公文庫)

聯愁殺 (中公文庫)

 一見すると『毒チョコ』に代表される多重推理ミステリですが、新たな事実や証拠の提出によって従前の推理が容易く変容してしまう点が妙味といえます。その先に驚愕の真相が用意されている点も含めて、どこまでも強かな一冊です。
【関連】『聯愁殺』(西澤保彦/中公文庫) - 三軒茶屋 別館

バイロケーション

バイロケーション (角川ホラー文庫)

バイロケーション (角川ホラー文庫)

 第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作品。バイロケーションという存在によって自己同一性が脅かされる実存的恐怖と理詰めによって辿り着く残酷な解決方法。そうしたホラー的要素で読者を引き付けつつも、最後には大外からSFミステリ的趣向が一気にまくってきます。本年とっておきの逸品です。
【関連】『バイロケーション』(法条遥/角川ホラー文庫) - 三軒茶屋 別館

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

 2008年本屋大賞大賞(1位)受賞作。人気作家の人気作品はやはり面白かったです。
【関連】『ゴールデンスランバー』(伊坂幸太郎/新潮文庫) - 三軒茶屋 別館

造花の蜜

造花の蜜〈上〉 (ハルキ文庫)

造花の蜜〈上〉 (ハルキ文庫)

造花の蜜〈下〉 (ハルキ文庫)

造花の蜜〈下〉 (ハルキ文庫)

 これだけの傑作がスルーされてしまうというのは、やはり「このミス」などに代表される現在のミステリ業界の年末ランキングシステムには問題があるといわざるを得ません。早めの文庫化を機に多くの方に読んでいただきたいです。誘拐ミステリの系譜に燦然と輝く歴史的傑作です。
【関連】『造花の蜜』(連城三紀彦/ハルキ文庫) - 三軒茶屋 別館


 単行本で新刊を追っかけるのは完全に諦めました。ってゆーか、もはや文庫でも追っかけきれてません(苦笑)。そんな時流に乗り遅れたブログではありますが、今年は本屋大賞上位作が文庫化されたこともあり、傑作ミステリに手堅く触れることができた1年でした。そんな中にあって『バイロケーション』は意外な収穫でした。来年はもっと積極的に未開の地を切り開いていけたらいいのですが……(多分無理)。
【関連】私家版2009年国内ミステリ ベスト10 - 三軒茶屋 別館