『輝く断片』(シオドア・スタージョン/河出文庫)

輝く断片 (河出文庫)

輝く断片 (河出文庫)

 SF作家として知られているスタージョンの短篇集ですが、本書にはミステリ色の強い作品がいくつか意図的に集められています。すなわち「スタージョン流の犯罪小説傑作選」とでもいえるのが本書です。もっとも、ミステリとはいってもそこはスタージョン。いずれも一筋縄ではいかない作品ばかりです。

取り替え子

 取り替え子ってそういうことでしたっけ?ちょっと邦題に違和感が。

ミドリザルの情事

「人間の中で一生暮らすくせに、人間に関するごく単純な事実を死ぬまで知らない人間がおおぜいいる。つまり、人間はおおぜい集まると人間じゃなくなるって事実だ。集団は怪物なんだよ」
(本書所収「ミドリザルとの情事」p54より)

 皮肉とエッジの利いた艶笑譚。何気に本書収録作の中で『輝く断片』と同レベルの傑作じゃないかと思ったり。

旅する巌

 作家が売れない作品を書いたら、それはエージェントの責任。作家が売れる作品を書いたら、それは作家の功績。そして、作家が一発当てたら、作家は別のエージェントに乗り換える。だれからも好かれない存在、それがエージェントだ。
(本書所収「旅する巌」p71より)

 エージェントと作家の関係の内幕を描いた業界ネタ話かと思いきや、そこからなぜかSFに。叙情的な結末が逆にエージェントと作家という職業の世知辛さを物語っているようにも読めてしまいます(笑)。

君微笑めば

 人間が人間を殺すことが殺人ならば、非人間的存在が人を殺すこと、あるいは人が非人間的存在を殺すことについてはどのように考えるべきなのか。P・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』では”共感”が人間とアンドロイドを分かつメルクマールとされていますが、本書もまた同様の問題意識の下に書かれた作品として評価することができます。

ニュースの時間です

 角を矯めて牛を殺す。ならば、角を矯めないで牛を生かす、ということになりますが、果たして何が角なのか分からないのが人間というものです。「ニュースの時間です」というタイトルに破壊力があります。2005年第36回星雲賞短編賞部門受賞作です。

エストロを殺せ

 巻末の大森望の解説曰く、スタージョンがミステリ雑誌に書いた短編のベスト1というだけでなく、音楽小説の歴史にも犯罪小説の歴史にも残るオールタイム級の大傑作だと思うが、意外と話題になる機会が少なく、これまでアンソロジー等にも再録されていない(本書p413より)作品です。人が死ぬとはどういうことか。人を殺すとはどういうことか。……『HUNTER×HUNTER』の幻影旅団を少し思い出したり(ボソッ)。

ルウェリンの犯罪

 やろうと思っても悪いことなんかできるわけがないとてもいい人。その言葉の持つ意味の残酷さ。無知だから純粋で無能力だから優しい人。犯罪小説としては、責任能力の問題に鋭く切り込んだ傑作だといえます。

輝く断片

 著者曰く「自分が今まで書いた短編の中でももっとも力強い作品のひとつ」(本書解説p415より)とのこと。語る言葉がありません。