ホラー小説における健全・不健全ってなに?(オチはありません)

バイロケーション (角川ホラー文庫)

バイロケーション (角川ホラー文庫)

 『バイロケーション』(法条遥/角川ホラー文庫)は第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作ですが、ミステリとしてもなかなか楽しめるという評判を聞きつけて読んでみました。なるほど、確かにミステリ読みにオススメしたくなる逸品です。ということで、本書についてはいずれ改めてプチ書評したいと思っていますが、それはひとまず措いといて、今回取り上げたいのは本書とは直接関係のない巻末の選評です。選考委員の一人、林真理子が次のような選評を残しています。

 最後に今回も幼女の性的虐待を扱った応募作がいくつかあった。おばさん感覚と言われても構わないが、どうも私は容認出来ない。未成年の性的描写を扱ったコミックやネット上の映像をめぐって、国が乗り出し、それに実作者たちが反対している。こうした空気がある中、えんえんと少女を残酷に扱う文章を書く小説は決して健全とは思えない。ホラー小説における不健全さは、もっと別の方向に発揮してもらいたいものである。
(本書巻末「選評」p421より)

 ホラー小説と社会性についてはときに問題となることがあります。例えば、同じく第5回の日本ホラー小説大賞で話題となった『バトルロワイヤル(参考:バトル・ロワイアル - Wikipedia)』などもそうです。見たいような見たくないような境界線上の物語を描くホラーならではの問題だといえるでしょうか。
 社会の流れや風潮に従うことが健全なのだということであれば、未成年の性的描写や残酷な描写を描いた作品は不健全な作品であるということになるのでしょう。しかし、そんな風に権力に迎合することが健全というのはちょっと……。表現の自由とはそういうものではないはずです。むしろ、そういう空気があるからこそ、今しかないと駆け込みで応募した人も何人かいるんじゃないかと邪推してもみたり。
 アイデアとして古臭い・目新しい点がないとか面白くないとか文章が破綻してるとかそういう理由で落とされるならともかく、単に未成年の性的描写や残酷な描写があるからという理由のみで落とされるのだとしたら堪りません。というか、そういうことなら募集要項に「未成年の性的描写、残酷描写のある作品は対象外です。」といった注意書きがあった方がよいと思います(参考:http://www.kadokawa.co.jp/contest/horror/18th.php)。
 まあ、落とされたのがいったいどんな作品だったのかサッパリ分からないので抽象的なことしかいえないのですが、もやもやしますです……。
 ちなみに、『バイロケーション』は未成年の性的残酷描写とはまったく無縁ですがとても面白かったので重ねてオススメしておきます。
【関連】『バイロケーション』(法条遥/角川ホラー文庫) - 三軒茶屋 別館

バトル・ロワイアル 上  幻冬舎文庫 た 18-1

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バトル・ロワイアル 下 幻冬舎文庫 た 18-2

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