イブニングで青木幸子による将棋漫画『王狩』の連載がはじまったよ!

 イブニング8号(2010年4月13日号)から青木幸子による将棋漫画『王狩』の連載が始まりました。
「ZOOKEEPER」青木が少女棋士を描く新連載、イブニングで - コミックナタリー
 単行本の1巻が出たらまた改めて記事を書こうと思いますが、とりあえず一将棋ファンとして連載開始を祝い思い付きをつらつらと。
 少女が主人公の将棋漫画となると、『しおんの王*1を思い浮かべられる方もおられでしょう。ただ、『しおんの王』の主人公の紫音は女流棋士(参考:女流棋士 (将棋) - Wikipedia)であったのに対し、『王狩』では主人公の久世杏が奨励会新進棋士奨励会 - Wikipedia)へ進むことが明示されています。つまり”女流棋士”ではなく”女性棋士”が描かれるであろうことが推察されます。
 たいした違いではないと思われる方もおられるかもしれませんが、将棋ファンからすればこれはかなり大きな違いです。今後、久世杏という少女が女性棋士としてどのような棋士人生を歩むことになるのか非常に気になります。
 ちなみに、作者は連載開始に当たって自らのブログにて次のようなことを書いています。

将棋というゲームのクリアさが、それを指す人間の外側のガードを削りだしていくように描ければと思います。
杏と少年たちをよろしくお願いします
うろうろゆらゆら:スタートより

 これまたとても楽しみです。
 連載一回目では、久世杏(6歳)の他にも、曰佐英司(8歳)、園川圭一(9歳)、高辻図南(8歳)といった、これから杏の人生に深く関わることになるであろう少年たちも登場しています。これはおそらくは”世代”というものを描こうとしているからだと思います。
 ”世代”といえば将棋界で真っ先に思い浮かぶのが羽生世代(参考:羽生世代 - Wikipedia)です。その羽生世代について、彼らより3・4歳年下である行方尚史八段が語った次のような文章があります。

 羽生名人、佐藤康竜王ら「57年組」の存在は、僕に重たくのしかかってくる。ただ、漠然と奨励会生活を過ごした僕と比べて、奨励会入会時あるいはそれより前からのライバル関係を、十年以上続けている彼らは、考えられる上で最良の環境に、あらかじめ祝福されていた。
 一種の桃源郷に自意識が芽生える前から身を置いた彼らは、夢想におぼれることもなくリアルな少年時代を過ごすことに成功するのだ。ほしいものは、すでに分かっている。その道のりを歩むことによって、大抵の大人より面白い人生を生きることになるだろう。うぬぼれがちな少年ならばここで鼻にかかって達観してしまうのだが、彼らはさらに自らを律することによってそれを防いだ。うぬぼれると、すぐに置いてけぼりにあったから。将棋に乗っとられ、なんだか体が重くなっていき、街の空気が合わなくなったが、奨励会で競い合うことが楽しかったから、日常なんてどうでも良かった。普通であることに、軽蔑にも似たあこがれも持ったが、「ジャンプ」を買って読むなんてことは想像もつかないことだった。
 こうして彼らは棋士になり、次第に勢力を拡げ、ブランド名までつけられた。
(『将棋世界』95年1月号より*2

『王狩』ではどのような”リアル”やライバル関係が描かれるのかにも注目です。
 将棋の局面・棋譜などについて分かる範囲で少々。
 p33の局面は第21期竜王戦7番勝負第7局:羽生‐渡辺戦が元ネタとなっています。

 p34で杏の祖父である一馬が本を見ながら再現している局面は中飛車対飯島流引き角戦法ですが、これはおそらく本作の棋譜監修を担当されている飯島栄治六段(棋士紹介)の『飯島流引き角戦法』もしくは『新・飯島流引き角戦法』が元ネタと見て間違いないと思われます*3ので参考まで。
 p35〜36の棋譜は、1994年の王将リーグ:羽生‐村山戦の42手目から47手目・55手目だと思われます*4のでこちらも参考まで(将棋の棋譜でーたべーす:1994年王将戦 羽生善治‐村山聖)。
 また、作中で日佐がiPhoneを使いこなして将棋を指したりしていますが、iPhone用の将棋アプリには柿木将棋をはじめ様々なものがありますので、興味のある方は調べてみるとよいと思います(参考:iPhone / iPod touch 将棋アプリ 比較紹介)。いかにも現代風な将棋との付き合い方だと思います(私はiPhone持ってないので使ったことないのですが(汗)、相当便利みたいですよ)。
 まだ第1話しか読んでないのにいろいろと語りすぎてしまいましたが、とにもかくにも楽しみです。将棋漫画には現在連載中の『ハチワンダイバー』や『3月のライオン』といったライバルがありますが、将棋ファンとしてはどれもすべてヒットして欲しいです(笑)。なので、本連載についても今後の展開に期待して追っかけていきたいと思います。
【関連】『王狩1巻』将棋講座 - 三軒茶屋 別館

飯島流引き角戦法 (MYCOM将棋ブックス)

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マイコミ将棋BOOKS 新・飯島流引き角戦法

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*1:参考:そろそろ『しおんの王』について語っておくか - 三軒茶屋 別館

*2:『シリコンバレーから将棋を観る』(梅田望夫/中央公論新社)p177〜178からの孫引きであることをお断りしておきます。

*3:恥ずかしながら私は未読未入手です(汗)。機会があったら確認して追記します。

*4:参考:http://twitter.com/mtmt81/status/10923517182