私家版2009年国内ミステリ ベスト10

 年末ですので書評サイトらしく一応2009年のベスト国内ミステリなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版です。刊行年数などにかかわらず私が2009年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

独白するユニバーサル横メルカトル

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

 グロくてエグいホラーテイストの短編集ですが、そんな中にあってミステリ的にキラリと光る論理の輝きがあります。様々な狂気の論理が描かれた傑作集だといえるでしょう。かなり人を選ぶことは間違いないのですが、それでも年間ベストとして外すわけにはいかない魅力を持った一冊です。
【関連】『独白するユニバーサル横メルカトル』(平山夢明/光文社文庫) - 三軒茶屋 別館

七姫幻想

七姫幻想 (双葉文庫)

七姫幻想 (双葉文庫)

 七夕伝説の七姫の異称になぞらえて語られる七つの物語。その時代を生きる人物たちの機微が横糸、そうした思いが時代を超えて連綿と受け継がれていく様子が縦糸とした壮麗な物語が織られています。和歌をテーマとした連作集としても歴史小説としても楽しめる読み応え十分の逸品です。
【関連】『七姫幻想』(森谷明子/双葉文庫) - 三軒茶屋 別館

トーキョー・プリズン

トーキョー・プリズン (角川文庫)

トーキョー・プリズン (角川文庫)

 戦争裁判と殺人事件との対比によって、行為によって負わねばならない責任を結びつける因果の論理が厳しく問い直されています。小粒なトリックの積み重ねからそうしたロジックの問題を浮かび上がらせるプロットも好印象です。
【関連】『トーキョー・プリズン』(柳広司/角川文庫) - 三軒茶屋 別館

秋期限定栗きんとん事件

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

 従来までの小鳩君の視点だけでなく小佐内さんの彼氏である瓜野君の視点も加わることによって、思春期における自意識・全能感と無能感の揺り返しが仮借なく描かれています。ミステリとしても魅力的なガジェットがいくつも盛り込まれていますし、2009年ベスト級の作品だと思います。
【関連】『秋期限定栗きんとん事件』(米澤穂信/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

『ギロチン城』殺人事件

『ギロチン城』殺人事件 (講談社文庫)

『ギロチン城』殺人事件 (講談社文庫)

 生体認証システムという現代のテクノロジーと古典的トリックとが結びつくことによって鮮烈な作品に仕上がっています。非人間的な世界の中で人間性を問う論理の国のおとぎ話です。
【関連】『『ギロチン城』殺人事件』(北山猛邦/講談社文庫) - 三軒茶屋 別館

厭魅の如き憑くもの

厭魅の如き憑くもの (講談社文庫)

厭魅の如き憑くもの (講談社文庫)

 ホラーとミステリが融合した作風で知られる三津田信三の本領が発揮された一冊。怪奇趣味と合理主義の双方を満足させる密度の内容に加え、凝った構成・メタな仕掛けと盛りだくさんの逸品です。
【関連】『厭魅の如き憑くもの』(三津田信三/講談社文庫) - 三軒茶屋 別館

弁護側の証人

弁護側の証人 (集英社文庫)

弁護側の証人 (集英社文庫)

 今年は裁判員裁判の施行に伴いプチ法廷ミステリブームでしたが、そうした一連の流れの中で本書は復刊されました。私には初読時に気付かなかった程の自然な描写で、しかしながら大胆なトリックが仕掛けられています。時代の枠を越えて読み継がれるべき名作です。
【関連】『弁護側の証人』(小泉喜美子/集英社文庫) - 三軒茶屋 別館

さよならの次にくる(卒業式編、新学期編)

さよならの次にくる <卒業式編> (創元推理文庫)

さよならの次にくる <卒業式編> (創元推理文庫)

さよならの次にくる<新学期編> (創元推理文庫)

さよならの次にくる<新学期編> (創元推理文庫)

 探偵役とワトソン役が存在するミステリの多くは、ワトソン役を語り手としつつも物語の主人公は探偵役であることが多いでしょう。しかしながら、本作の場合には卒業式編→新学期編という副題からも分かるように探偵役が卒業してしまいます。したがって、ワトソン役の主人公が必然的に頑張らなくてはならないことになるのですが、そうしたワトソン役から探偵役への成長が青春ミステリという枠組みで自然に描かれている点に好感が持てます。
【関連】
『さよならの次にくる〈卒業式編〉 』(似鳥鶏/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館
『さよならの次にくる〈新学期編〉 』(似鳥鶏/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

密室殺人ゲーム2.0

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)

 『密室殺人ゲーム王手飛車取り』まさかのシリーズ化です(笑)。出題者=犯人が明らかとなっている前提で行なわれる「殺人ゲーム」ならではのトリックやその見せ方といった面で前作以上に工夫されているのが面白いです。徹頭徹尾不謹慎なストーリーと、どこか寂寥感のある結末とのコントラストが印象に残ります。
【関連】『密室殺人ゲーム2.0』(歌野晶午/講談社ノベルス) - 三軒茶屋 別館

玻璃の天

玻璃の天 (文春文庫)

玻璃の天 (文春文庫)

 ベッキーさんシリーズ第3作『鷺と雪』で北村薫はようやく直木賞を受賞しました。本書は、そのベッキーさんシリーズの2作目の文庫版です。そんな作品を今更2009年ベストの作品として紹介するなどお恥ずかしい限りですが(汗)、すっかり文庫派になってしまったのでご容赦を。昭和初期という時代、上流階級という目線がミステリとして存分に活かされている傑作です。
【関連】『玻璃の天』(北村薫/文春文庫) - 三軒茶屋 別館


 上にも書きましたが、新作の流れに追いつけなくなってしまい文庫派になってしまったため、ベスト10の紹介も文庫版ばかりになってしまいました。単行本派の方にとってはさぞ食い足りないベスト10になっているかと思われますが平にご容赦を(汗)。来年はもう少し頑張れたらいいなぁと…(去年も同じようなこといってる…駄目だこりゃ…)。
【関連】私家版2008年国内ミステリ ベスト10 - 三軒茶屋 別館