『彷徨える艦隊2 特務戦隊フュリアス』(ジャック・キャンベル/ハヤカワ文庫)

彷徨(さまよ)える艦隊〈2〉特務戦隊フュリアス (ハヤカワ文庫SF)

彷徨(さまよ)える艦隊〈2〉特務戦隊フュリアス (ハヤカワ文庫SF)

 艦隊規模での逃避行を描いたスペースオペラの第2弾です。
 内憂外患の状況にありながらも次々と危機を乗り越え続けるギアリーですが目の前には難題が相も変わらず山積しています。とはいえ、前巻での大勝によってギアリーの方針の正しさが認められて、ある程度やり易くなっているのは確かです。しかし、それが逆に反ギアリー派の態度をさらに硬化させることにもなります。
 それに、燃料や弾薬(?)といったものは敵の施設を攻略することで補給することはできますが、何といっても敵星系内での戦いであるがゆえに艦隊自体は消耗することはあっても戦力が増強されることはありません。ギアリーは常にシビアな判断を迫られることになります。
 ”ブラック・ジャック”ギアリーという英雄によるリーダーシップ。その英雄像は彼が勝ち続けることによって否応なしに出来上がっていきますが、しかしながら、それによって彼自身の人間的な面は孤独を深めていきます。また、そうした英雄が有する危険性というものも彼は自覚しています。英雄のイメージを破壊するためには敗北が一番です。しかし、それは許されません。”ブラック・ジャック”ギアリーとジョン・ギアリーの矛盾と乖離。
 さらにシュトラー星系の捕虜収容所において発見・救出された”伝説の英雄”ファルコ大佐の存在によって、ギアリーが抱えるそうした問題を顕在化され突きつけられることになります。彼が英雄であることを望まないのであれば、司令官の座をファルコ大佐に譲ってしまうのが手っ取り早いです。ファルコ大佐は決して無能ではありませんし祖国への忠誠心もあります。ですが、味方の犠牲を厭わないその戦闘実績は、現在のアライアンス艦隊の最優先目標である故郷への帰還という任務にはまったく向いていません。加えて、長らく捕虜であったことによるブランクと精神的ダメージを考慮すると、ファルコに司令官を任せるわけにはいきません。極めて他動的な状況ではありますが、彼は彼の意志で英雄であり続けることを決意します。
 本書のテーマのひとつに”信頼”があります。副題である「特務戦隊フュリアス」は作戦行動のために編成された別動隊のことです。有能な指揮官は、ときに艦隊の細部まで自らの思い通りに動かしたがるものです。実際、前巻までのギアリーは可能な限り艦隊を掌握することを意識していました。ですが、本書ではそこから一段階ステップアップします。部下に信頼してもらうためには、自らも部下を信頼しなくてはなりません。戦術的要請によって編成された特務戦隊によって、ギアリーは司令官としての度量を試されることになります。
 相手の姿が見えないままの駆け引きや、自軍の別動隊の様子をただ見ているしかないことによる不安や焦燥といった心情が、物語の描写がギアリーの視点に固定されていることによって巧みに表現されています。
 このようにして、司令官としてのギアリー、すなわち”ブラック・ジャック”としてのギアリーには徐々に信頼関係が強化されていきます。その一方で、ジョン・ギアリーとしてのギアリーには人間不信が付きまとっています。っていうか、リオーネ副大統領がまさかここまでやるとは(笑)。いや、敵地の真っ只中での激戦の最中にありながら軍人が英雄となることの危険性・シビリアンコントロールの意義を唱える契機となる存在として、リオーネは最初から重要な役回りではありましたが、それでも、ギアリーとこんなに親密(?)になるとは思ってませんでした。親密になるからこそ疑惑も生まれます。”ブラック・ジャック”であることを疎みつつも、その反面、家庭を顧みず仕事にのめり込んでいくビジネスマン的な哀愁を感じずにはいられません(苦笑)。
 ハイパーネット・ゲートの件を通じてSF的な伏線もさらに強調されてきましたし、アライアンス艦隊がこの先どういった運命を辿ることになるのか、続きが非常に気になるシリーズです。
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