合唱オタが非オタの彼女に合唱世界を軽く紹介するための10曲
●アニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本
に触発されて書いてみました。
まあ、どのくらいの数の合唱オタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、
「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、その上で全く知らない合唱の世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」
ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、合唱のことを紹介するために
聴かせるべき10曲を選んでみたいのだけれど。
(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女に合唱を布教するのではなく相互のコミュニケーションの入口として)
あくまで「入口」なので、時間的に過大な負担を伴う1時間以上の組曲は避けたい。
できれば1曲、長くても数曲にとどめたい。
あと、いくら合唱的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。
映画好きが『カリガリ博士』は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。
そういう感じ。
彼女の設定は
合唱知識はいわゆる「オペラ」的なものを除けば、「レクイエム」程度は聴いている
サブカル度も低いが、頭はけっこう良い
という条件で。
まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。
三群の混声合唱体とピアノのための「ぼく」 (作曲:三善晃)
まあ、いきなりここかよとも思うけれど、「三善以前」を濃縮しきっていて、「三善以後」を決定づけたという点では外せないんだよなあ。長さも23分だし。
ただ、ここでオタトーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。
この情報過多な作品について、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報を彼女に伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。
うた(作曲:武満徹)、白いうた青いうた(作曲:新実徳英)
アレって典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうな合唱曲(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのものという意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには一番よさそうな素材なんじゃないのかな。
「合唱オタとしてはこの曲は“うた”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。
白き花鳥図(作曲:多田武彦)
ある種の合唱オタが持ってる男声合唱への憧憬と、テクスト(主に日本の近代詩)のオタ的な考証へのこだわりを彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにも多田武彦な
「童貞的なださカッコよさ」を体現する和声
「童貞的に好みな詩」を体現する北原白秋
の二つをはじめとして、オタ好きのする要素を世界にちりばめているのが、紹介してみたい理由。
月光とピエロ(作曲:清水脩)
たぶんこれを聴いた彼女は「タダタケだよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。
多田武彦は清水脩の弟子なこと、「合唱組曲」という形式は、清水脩が『月光とピエロ』で世界で初めて使った手法であること、清水脩はカワイ楽譜元社長なこと、なんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。
混声合唱曲 永訣の朝(作曲:鈴木憲夫)
「やっぱり合唱は子供のためのものだよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「雨ニモマケズ」でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、この作品にかける鈴木の思いが好きだから。
断腸の思いで削りに削ってそれでも14分、っていう尺が、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、その「捨てる」ということへの諦めきれなさがいかにもオタ的だなあと思えてしまうから。
永訣の朝の長さを俺自身は冗長とは思わないし、もう削れないだろうとは思うけれど、一方でこれが木下や信長だったらきっちり7分にしてしまうだろうとも思う。
なのに、14分を作ってしまう、というあたり、どうしても「自分の曲を形作ってきたものが捨てられないオタク」としては、たとえ鈴木がそういうキャラでなかったとしても、親近感を禁じ得ない。作品自体の高評価と合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。
男声合唱曲『御誦』(作曲:大島ミチル)
今の若年層で御誦聴いたことのある人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。
アニメ・映画音楽よりも前の段階で、大島の哲学とか音楽技法とかはこの作品で頂点に達していたとも言えて、こういうクオリティの作品が合唱曲でこの時代にかかっていたんだよ、というのは、別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなく合唱好きとしては不思議に誇らしいし、いわゆる「鋼の錬金術師」でしか大島を知らない彼女には聴かせてあげたいなと思う。
邪宗門秘曲(作曲:木下牧子)
木下の「耳」あるいは「曲づくり」をオタとして教えたい、というお節介焼きから見せる、ということではなくて。
「神への祈りを歌う」的な感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、だからこそ日本人が歌うには邪宗門秘曲以外ではあり得なかったとも思う。
「無宗教者が宗教曲を歌う」というオタの感覚が今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の源は邪宗門秘曲にあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、単純に楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。
宇宙について(作曲:柴田南雄)
これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。
こういう演劇風味の演出をこういうかたちで合唱化して、それが非オタに受け入れられるか気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。
無伴奏混声合唱のための「カウボーイ・ポップ」(作曲:信長貴富)
9曲まではあっさり決まったんだけど10曲目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的に信長を選んだ。
三善から始まって信長で終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、ニコニコ以降のポップス時代の先駆けとなった作品でもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい作品がありそうな気もする。
というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10本目はこんなのどうよ、というのがあったら教えてください。
「駄目だこのフジモリは。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。
こういう試みそのものに関する意見も聞けたら嬉しい。