ドラクエ世代必読の一冊 『すぎやまこういちワンダーランド』

 懐メロクラスタの方々なら『亜麻色の髪の乙女』『恋のフーガ』、競馬クラスタの方々なら『東京G1ファンファーレ』、そしてゲームクラスタの方々なら『ドラゴンクエストシリーズ』と、この方の曲を聴いたことの無い人はいない、といっても過言ではない偉大なる作曲家、すぎやまこういち
 彼についてはインタビューや関係者の証言など、断片的な情報はあるものの、「すぎやまこういち」自身を特集した書籍と言う意味では珍しかったため、手に取りました。
 内容としては、これまた期待を裏切ることなくボリューム満点。
 すぎやまこういちの半生について自身が語っていたり、堀井雄二中村光一との対談など、ドラクエ世代なら垂涎。
 内容については様々なインタビューで言われていたことの総集かもしれませんが、やはり1冊にまとめられると壮観です。
 例えば、『ドラゴンクエスト』フィールドのテーマ、「広野を行く」を作曲したとき。

すぎやま でも、フィールド曲の「広野を行く」は最初、中村さんの評価はあまりよくなかったんですよね。
中村(光一) 私のイメージとしては、勇ましく、いかにも「冒険に行くぞ!」という感じの曲がいいなと思っていたのですが、先生が書いてくださった曲は、どこか寂しくて、不安感があるという印象だったんです。ところが、ゲームと合わせて実際に曲を流しながら動かしてみたら、スタッフには結構好評で、みんな口ずさむようになっていました。
すぎやま はじめての、たった一人での冒険だから、不安や寂しさに照準を合わせたんだよね。勇ましさや意気込みというイメージに一番近いのは、「III」の「冒険の旅」ではないかなと思います。
(P84)


 はたまた、「序曲」に対する思い。

 中世のお城の屋上から、長いペナントをたらしたホルンを吹いているお城の兵士たちがイメージとしてあったんです。
 そこで、最初のヴァージョンはホルンをイメージしたイントロになっていて、ちゃんとホルンの音形を意識して作曲しました。
 ファミコンのあのピコピコしたPSG音源であってもホルンの音だと想像できるのは、元の楽器の音形を理解して作っているからなんですよ。
(P137)


 読めば読むほど、「この人はドラクエが、そしてゲームが好きなんだなぁ」と感動します。
 「音楽」という、通常とは異なった切り口で「ドラクエ」について知ることが出来る珠玉の一冊。
 「ドラクエ世代」ならば読んで損は無いどころか、「必読の書」だと言えるでしょう。オススメです。