森博嗣『スカイ・イクリプス』中央公論新社
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/06/24
- メディア: ハードカバー
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作者は「短編集「スカイ・イクリプス」については、全部を読んだあとが良いとも思うし、これだけを読んでもべつに良いとも思う」と発言していますが、全シリーズを読まれたあとのほうがより内容について理解できるかと思います。
と、いうわけで、以下、『スカイ・クロラ』まで全5巻を読んだかた推奨です。
『スカイ・イクリプス』は『スカイ・クロラ』シリーズに登場した各キャラに焦点を当てた外伝短編です。外伝とは言っても数名については「後日譚」も兼ねています。
ジャイロスコープ
整備士・ササクラの物語です。
『スカイ・クロラ』の助演男優賞と言って過言ではないキャラ、整備士ササクラ。
この短編では彼の日常が描かれます。
クサナギとの他愛も無い会話。しかしその会話はふだんのクサナギの尖ったものではありません。
孤独に生きてきた彼女が「飛行機」を介し唯一信頼を寄せていたのがササクラだったのかもしれません。
ナイン・ライブス
「彼」のその後の物語です。
猫は九つの命を持つと言われます。黒猫もまた、不吉の象徴であると同時に、しぶとく生き続けるのでしょう。死を欲するキルドレとの対比が彼の生き様をまざまざと浮き立たせます。
ワニング・ムーン
カンナミ・ユーヒチが赴任時に語った、「海に不時着したが、コクピットを開けなかったので助かった」というエピソードです。
犀川創平は「コックピットというのは棺桶と言う意味」と言っていますが*1、彼にとってもそうだったかもしれません。
そして救出されたあとの副船長との会話。救うことで、救われる。最後の一文が心に響きます。
スピッツ・ファイア
パイロットたちが通う喫茶店。オススメはミートパイ。
この店のマスターもまた、数多くのパイロットに接しています。
整備士と異なり、パイロットの交代は彼らの人生に直接影響するわけではありません。
そして店の外にいつも座っている老人。
彼が死ぬ前に、「神様」に出会うことはあるのでしょうか。
ハート・ドレイン
クサナギの上司であり、彼女を表舞台に引っ張り出したカイ。
この短編では彼女に焦点が当てられます。
とある事件をきっかけにクサナギに出会ったカイ。組織と言う男社会の中で、女の武器を巧みに活かし頭角を現していく彼女にとって、ジェンダにとらわれず自らの能力のみで頭角を現そうとする彼女は、自身が望もうとして成れなかった存在だとも言えます。
なぜカイがクサナギにこだわり、彼女の「飛びたい」という望みを抑えてまで組織のトップにしようとしたのか、その理由が分かったような気がします。
ドール・グローリィ
「彼」と「彼女」のその後について。
時は巡る。時は流れる。
そして、この話が『スカイ・クロラ』の一つのエンディングとなります。
スカイ・アッシュ
『スカイ・クロラ』もう一つのエンディング。
主人公とその後のエピソードについて、ぜひともこれはあなたの目で確かめてください。