『とある飛空士への追憶』(犬村小六/ガガガ文庫)
- 作者: 犬村小六,森沢晴行
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/02/20
- メディア: 文庫
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「地上のことがくだらなく思える瞬間はあるかも。空のなかでは身分なんて関係ないから」
ストーリーはいたってシンプルですが読み応えは抜群です。中央海の単独敵中翔破。待ち構えるのは敵国戦闘機軍。送り届けるのは次期皇妃。最初に少しだけ状況説明があって、そこは少し分かりにくいかもしれません。でもそんなの本筋でも何でもありません。複座式水上偵察機サンタ・クルスが飛び立った瞬間から、あとはページをめくる手が止まらなくなります。
貧民窟で育ち教会に拾われた混血児シャルル。凄腕のパイロットでありながらその血筋ゆえに正規のパイロットとして遇されることはありません。そんな彼ですが、緊急時の任務であるがために大役に抜擢されます。彼が運ぶことになるのは次期皇妃ファナ。誰もが目をみはる美貌の少女ではありますが、その美しさは自らの人生を放棄した人形の美しさです。そんな二人だけの中央海単独的中翔破。本来ならまったく交わることのない運命にあるはずの男女の出会い。吊り橋理論(参考:吊り橋理論 - Wikipedia)などと言ってしまうと身も蓋もないかもしれませんが(笑)、でも、決死の任務の中にあるからこそ語り合える言葉と見えてくる真実というものはあるはずです。そうしたものを少しずつ分かち合って親密になっていく二人の姿は読んでて頬が緩んできます。
ロマンスばかりではありません。敵中翔破という無謀にも思える任務なだけに敵機の追求も厳しいものがあります。そうした困難を乗り越えながら愛機サンタ・クルスを操るシャルルの腕前もさることながら、その飛行の様子を読者に伝える筆力にはほれぼれとさせられます。これはもう実際に読んでいただくよりないのですが、無理に例えるならば森博嗣の『スカイ・クロラ』よりも少しだけ血の通った描写ということになるでしょうか(ナンノコッチャ)。
架空のお話ではありますが、歴史の1ページとしてひっそりと刻まれた”とある飛空士への追憶”。とても綺麗で読後に余韻がたなびく結末は特筆ものです。傑作ライトノベルとしてオススメです。
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