森博嗣『フラッタ・リンツ・ライフ』中公文庫

フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life

フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life

森博嗣スカイ・クロラ』シリーズ3巻です。
ダウン・ツ・ヘヴン』既読のかた推奨です。
この巻から主人公はキルドレ・栗田仁郎(クリタジンロウ)です。
ナ・バ・テア』で辻間の死後に比嘉澤とともに「栗田」が配属されましたが、同一人物かどうかは不明です。
この巻では彼女から見た「草薙水素」について描かれています。

あらすじ

「僕」ことクリタは上司の草薙と戦闘機で空を駆け、墜ちた同僚の恋人相良を訪ね、娼婦フーコのもとに通う日々を送っている。
そんな淡々とした日々を過ごす「僕」だが、あるきっかけで「キルドレ」とクサナギの秘密を知ってしまい・・・というお話です。

世代交代

今作の主人公は草薙の部下である「僕」ことクリタです。
クリタもまた優秀なパイロットではありますが、草薙と異なりストイックさはありません。
敵機を撃墜し生還した晩は娼婦を抱き、同僚・土岐野と軽口を叩きあいます。まさに英題「Flutter into Life」、人生を「ひらひら舞って」います。
上司であるクサナギは部下に恐れられているらしく、

「下品なことを口にしたらクサナギ氏に叱られる。私の空を汚さないで」(p52)

とやや堅い上司と思われています。『ナ・バ・テア』『ダウン・ツ・ヘブン』を読んだ読者は、「戦闘機乗り」を追及しようとした彼女の変貌ぶりに軽い驚きを覚えるでしょう。
しかしながらクサナギとクリタの共通項もあり、クリタもまた「飛行機に乗っていたいから」(P111)と空への渇望というモチベーションを持っています。
クサナギの人生にティーチャやヒガサワが交差したように、クリタの人生にもクサナギが大きな影響を与えます。ただしそれは、かつてのクサナギではありませんでした。

明かされる謎

今作では、キルドレ草薙水素についての謎が一部明かされます。
キルドレは一時期の間、薬害によって生まれた「歳をとらない」子供のことです。そしてまた、歳をとらない副作用として「記憶障害」が表れます。人物の顔や名前が覚えられなかったり、幻覚を見たり。クリタもそれらの副作用に悩まされます。その副作用が次巻の大きな伏線になるのですが、それは次巻の書評にて。

続きます

この巻でちょうど折り返し地点。
草薙の謎、キルドレの謎など様々な伏線が分かりつつありますが、次巻『クレイドゥ・ザ・スカイ』で収束、そして大きな転換を迎えます。