森博嗣『タカイ×タカイ』講談社ノベルス

タカイ×タカイ (講談社ノベルス)

タカイ×タカイ (講談社ノベルス)

 森博嗣のXシリーズ第3巻です。
 名マジシャン・牧村亜佐美の自宅敷地内で発見された、地上約15メートルのポールの上に掲げられていた死体の謎をいつものメンバー(真鍋、小川、鷹知)が解いていく、というお話です。
 Xシリーズはこれまでのシリーズと異なり、「細部に筆を割くようになった」かなあ、というのがフジモリの率直な感想です。あくまで体感ですが、これまで「従」の部分であった、事件とその謎を追う部分「以外」の描写の比率が増えているような気がします。
 今作『タカイ×タカイ』でも、登場人物・真鍋瞬市の大学生活や小川と鷹知の日常など、本筋とは関連がないプライベートな情景やキャラの心情などが多く描かれています。*1
 これまでの森博嗣作品の特徴である、いわゆる「理系ミステリ」としてこれまで読者が抱いていた「シンプル、クール」なイメージとは若干路線が異なるため、従来からのファンは違和感を感じるかもしれませんが、そこは森博嗣、これまでのシリーズを読んでいる人はこれまで以上に楽しめる展開になっています。
 と、ここまで抽象的な話をして本の内容に触れていませんでしたが、今作も非常に楽しめました。
 英語サブタイトル「crucifixion」は「磔」という意味。まさしく、「磔」=「ポールに掲げられていた他殺死体」の謎を軸にしつつ、真鍋、小川、鷹知、そして西之園と様々な登場人物が事件にアプローチしていく様子は、「一歩引いた」感があるこれまでのシリーズの探偵役と異なり、物語そのものがアクティブに動いているなあ、と感じました。
 Xシリーズは他のシリーズに比べエンタテイメント色が濃く、とっつきやすいかと思いますので、食わず嫌いの方にオススメしておきます。ちなみに、Xシリーズはあと3作。(MORI LOG ACADEMYより)シリーズ設定をGシリーズに引き継ぐのでしょうか。そちらも楽しみです。

*1:実はシリーズ全体の伏線なのかもしれませんが