森博嗣『ナ・バ・テア』中公文庫
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2004/06/01
- メディア: 単行本
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未読の方むけになるべくネタバレしないように進めます。
なお、文庫版が出ていますが、写真がきれいですので書影は単行本版にします。
あらすじ
主人公「僕」は戦闘機乗りを職業としている。自身の腕だけを信じ、他者との接触を極限に厭う「僕」。そんな「僕」が「出会い」と「別れ」を経て・・・というお話です。
「僕」の孤独
タイトルは「None But Air」で、「空だけ」という意味です。
タイトルの通り、主人公「僕」は戦闘機に乗ることを至上の喜びとし、それ以外の日常を極限に削っています。
手の指を、開いたり、握ったり、動かす。
操縦桿を握る手だ。
目を瞑ると、遠くで旋回する敵機が見えた。(p141)
日々の自身の行動ですら飛行機の操縦に照らし合わせるそのストイックさは、S&Mシリーズの犀川創平に通じるところもあります。S&Mシリーズにおいて犀川創平が、純粋な研究者として生きて生きたいという気持ちが、社会人として生きていかなければならないという環境によって失われていくように、この物語も「僕」が周囲との「しがらみ」によって純粋なパイロットでいたい、という気持ちを失っていく物語。すなわち、「僕」の成長と喪失の物語であるといえます。
『ナ・バ・テア』では「僕」の人生に交差する3名の人物が登場します。彼らとの「出会い」そして「別れ」が、「僕」のその後の人生にどう影響を与えていくのか?
「僕」の正体ともども、読んで確かめていただきたいと思います。