『十三の呪 死相学探偵1』(三津田信三/角川ホラー文庫)

十三の呪 死相学探偵1 (角川ホラー文庫)

十三の呪 死相学探偵1 (角川ホラー文庫)

「小説を書く上で一番大切なのは雰囲気。次は物語展開。大切なのはその二つだけ」
(『ミステリマガジン』2008年8月号所収の三津田信三インタビューp13より)

 そう語る三津田信三がキャラクター優先の物語として書いたのが本シリーズです。もっとも、本書はシリーズ1冊目ということもあってキャラよりも設定の説明の方に重点が置かれている節もありますが、それもまずは仕方のないことでしょうか。
 主人公である弦矢俊一郎は二十歳という若さで探偵事務所を営むことになります。それは、他人に現れた死相が視えるという特殊能力、「死視」を持つが故です。ま、邪気眼といわれればその通りですが(笑)、その能力のために人との付き合いが極端に不得手な彼は、自分の能力を最大限に活用できる職業として私立探偵を選択しました。
 「死相」が視えるといっても、その視え方は様々です。病死、事故死、殺人といったものをひっくるめて「死相」として視ることができるのですが、そうした死因が特定できるほどはっきりと視えるわけではありません。そこで、「死相」の解釈やその他の情報から死因を特定しなければなりません。そして、その死因を除去すれば、「死相」を消すことができます。

「本当に必要なのは、それこそ殺人事件を未然に防げる小説の中の名探偵ですよ」
(本書p68より)

 そうは言いますが、小説の中の名探偵の仕事といえばたいていは既に起きてしまった殺人事件の謎を解明するのが関の山で、殺人の予防など望むべくもないのが本当のところでしょう。「死相」を視ることができる彼にこそ殺人事件の防止が求められているのです。
 とはいえ、本書は呪いや怪異といった超常現象が存在するという中での殺人事件です。そのため通常のミステリとは推理の条件がかなり異なります。極端な話、何が起きてもおかしくはないわけで、その意味で本書はSFミステリです。ただ、ホラーとミステリの融合を得意とする三津田信三の作品だけにホラーとミステリの間を揺れ動く過程が長くて、なかなかミステリとしての立ち位置を示してくれません。いっそのことホラーとして楽しめればよいのですが、作中の要所要所で古典ミステリの題名が挙がったりしてミステリ的な雰囲気は保たれ続けます。
 というわけで、ミステリとしての楽しみ方を見つけるのに苦労したのが正直なところではありますが、一種のダイイングメッセージものと考えればいいのかなぁと。もちろん、被害者が死に際して何かメッセージを残しているというわけではありません。ですが、「死相」という事前情報と、死に至るまでの不可解な事象。それらを取捨選択することで導き出される解釈の持つ意味はダイイングメッセージのそれと酷似していると思います。通常のミステリであれば、ダイイングメッセージは推理としても証拠としても直接的なものではなくて、本来は補助的なものに過ぎません。ところが、本書の事件は通常のそれではありません。なので、「死相」の意味・解釈のみが真相を意味することになります。そう考えればそれなりに納得できるのではないでしょうか。
 いや、本書の「死相」を巡る解釈自体は感心したというよりは呆れたというのが本音に近いですが(苦笑)、それが明らかになってから後の展開も含めればまあまあ面白かったです。次回からは主人公の謎の過去についてなどキャラクター色が強くなっていくとは思いますが、いったいどうなるのでしょうね?
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