『ライノクス殺人事件』(フィリップ・マクドナルド/創元推理文庫)
- 作者: フィリップマクドナルド,Philip MacDonald,霜島義明
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/03/24
- メディア: 文庫
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でもって第一部に入りますと、無限責任会社ライノクスの社長であるF・X・ベネティックとその息子アントニー、共同経営者のリックワースといった経営陣が、半年後に見込まれる大成功を収めるために現在の経営上の大ピンチをいかに凌ぐかといった会社の危機が語られることになります。そもそも、タイトルである”ライノクス殺人事件”ってどういう意味? という疑問の答えがここで判明するのですが、ライノクスというのは会社の名前です。しかし、となると会社なのに殺人事件とはこれいかに? という新たな疑問が生まれることになります(ちなみに、原題は単に Rynox です。厳密にいえば邦題は少々問題だと思います)。このことからして単純な殺人事件でないことは想像がつくのですが、読み進めるとこれまた奇妙な構成が採用されていることが分かります。本書は三人称視点ながらその中心視点となる人物がコロコロと変わる複元描写が用いられていまして、その視点ごとにパラグラフが分けられています。そして、パラグラフとパラグラフの間に作者の解説が入るという珍しい構成となっています。こうした解説は一見するとサスペンス的な興味を持たせながら読者に読み方・読みどころを説明するものとして映りますが、実は意外な真実を隠すためという腹黒い狙いがあったりします。ってか、ちょっとばかしあざといと思いますけどね(笑)。
もっとも、奇妙な構成を採ったのにはそれだけの理由があります。作中で発生する密室殺人事件。その真相自体を予想するのはそれほど難しいものでもないでしょうし、それを支えるトリックも決して好みではありません。それでいてフェアプレイという観点から問題がないとはいえないので、ミステリとして見たときの点数は辛めになります。
でも面白いです。ライノクスという法人格の命運をかけた物語。結末から発端までの因果の流れとそれまでの伏線があたかもパズルのピースのごとく明らかとなって全体図が明らかになる過程は紛れもなくミステリです。ま、小説としては実験性ばかりが先に立ってるので問題がないわけではないのですが、しかしながら狙った趣向とそれを実現させるための手法の妙には素直に感服しました。技巧的な変わった小説が好きな方にはオススメの一冊です。
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