ビブリオ・ライトノベル

ミステリマガジン 2007年 09月号 [雑誌]

ミステリマガジン 2007年 09月号 [雑誌]

 『ミステリマガジン 2007年9月号』は、ビブリオ・ミステリ特集でした。ビブリオとは、ビブリオマニアのビブリオのことで(ビブリオという名前の菌がいるのでややこしい)、読書狂・書痴といった意味です。その中で提唱されているビブリオ・ミステリの定義は以下のようなものです。

1 本に関する職業の人物が主人公となる(古本屋、司書、編集者など)。
2 本に関する場所が主舞台となる(図書館、出版社、書店など)。
3 作中で特定の本(及びその背景)が重要な役割を果たす(トリビア程度では不可)。
4 作中でとりあげられた本の構造が、小説全体に影響を及ぼす(メタフィクショナルなものを含める)。

 以上の1〜3の二つ以上を満たしているものをビブリオ・ミステリの必要条件、4を十分条件とする。
(『ミステリマガジン 2007年9月号』p36より)

 ということで、上記の定義そのままにビブリオ・ライトノベルなるものを脳内検索してみました。

その本、持ち出しを禁ず―戒書封殺記 (富士見ファンタジア文庫)

その本、持ち出しを禁ず―戒書封殺記 (富士見ファンタジア文庫)

ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)

ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)

時載りリンネ!〈1〉はじまりの本 (角川スニーカー文庫)

時載りリンネ!〈1〉はじまりの本 (角川スニーカー文庫)

“本の姫”は謳う〈1〉 (C・NOVELSファンタジア)

“本の姫”は謳う〈1〉 (C・NOVELSファンタジア)

蓬莱学園の初恋! (富士見ファンタジア文庫)

蓬莱学園の初恋! (富士見ファンタジア文庫)

図書館戦争

図書館戦争

 『R.O.D』シリーズは、読書好き(ってゆーか書痴)が紙を武器にして戦う、清く正しいビブリオ・ライトノベルの典型です。ビブリオマニアというのは程度の差こそあれ変人ですが、本作の主人公である読子・リードマンは極めつけの変人です。書物に淫しているレベルの変態です。作中で起きる事件も書物絡みのものばかりですし、ビブリオ度の高いシリーズです。
 『戦う司書』シリーズは、すべての死者が本になり図書館に収められる世界での司書が主人公の物語です。小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだと思いますとは北村薫の言葉(『空飛ぶ馬』の単行本版より)ですが、書物にはそんな人生への想いが込められています。
 『封書戒殺記』シリーズは、図書部長が主人公です。図書部長(委員長が普通?)が規則にうるさいのはデフォルトですが、それも書物への愛ゆえの業なのでしょう。
 『ある日、爆弾がおちてきて』はタイムトラベルをテーマにした短編集ですが、その中に収録されている『トトかみじゃ』はビブリオものです。書物はときに過去から未来への大切な贈り物になります。
 『時載りリンネ!』は、水や食料の代わりに本を読むことでエネルギーを摂取し、さらには読んだ字数に比例して時間を止める力を持つ種族「時載り」の少女リンネが主人公の物語です。本を読まないと生きていけないのにリンネは本を読むのが苦手で、そこが面白いところです。書物にはたくさんの知識が詰め込まれていますが、その中の時間は止まったままです。その時間は、誰かにページを開いてもらうことで動き出します。
 『〈本の姫〉は謳う』は、世界を破滅から救うため、そして〈本の姫〉の記憶を取り戻すために世界に散らばってしまった文字〈スペル〉を回収する旅を続ける少年アンガスの物語です。この物語では、本はとても重要な役割を担っています。〈本の姫〉は本を開くことによって姿を現す本の化身のような存在です。また、この世界の本は少々特殊で、呪文を唱えることによって音声や映像までが立ち上がってきます。そうした設定は物語の行方にも深く関わっているものと推察されます。
 あと、『図書館戦隊ビブリオン』というのもあります。読んでみたいと思ってるのですが、出版社品切れ状態で古書店に入るたびに探し回っています(泣)。多分ビブリオものです。
 さて、ここからだんだんビブリオものとして怪しくなっていきます。
 『文学少女』シリーズは、書物というハードよりも物語というソフトに重点が置かれているので、正直ビブリオものとして実は微妙だと思います。ただ、本を食べるという行為は書物がなければできないのですから、ビブリオものとしてセーフということで(笑)。読む行為が、食べるという生きる上での必然の行為に置き換えられていることで、その対比としての書いたことへの後悔・書くことへの苦悩が際立ちます。これから先、心葉は自らの物語を紡ぎ出すことができるでしょうか?
 『蓬莱学園』はビブリオものではありません(笑)。にもかかわらず紹介した理由は、その世界設定に出てくる旧図書館(参照→Wikipedia:旧図書館)があまりにも印象的だからです。ボルヘスの『バベルの図書館』(『伝奇集』収録)を彷彿とさせるものですが、そのイメージは『魔法先生ネギま!』の図書館島に引き継がれています。
 『図書館戦争』はライトノベルではありませんが(笑)、著者のラノベ知名度の高さを無視できませんでした。ミリタリー&ラブで定評のある著者ですが、本シリーズでは図書館と書物を取り巻く諸事情を積極的に取り上げていて、そこが個人的に評価の高いところです。

 ビブリオものは、本が題材となっているがゆえに、その本を読んでいる読者の心を多かれ少なかれ写し出します。ときに読者に勇気を与え、ときに読書という行為の暗黒面をまざまざと見せつけます。そうした感情の源をその本の中に求めてそうしてさらに湧き上がる感情を本の中に求めるその繰り返しの結果、ついにはその本に魅入られてしまうような、抜け出せないような、そんな怪しげな魅力がビブリオものにはあります。電子出版やケータイ小説が盛んになってきている昨今ですが、ビブリオものだけはぜひ書物として読み継がれていって欲しいものです。
 「他にもこんなビブリオ・ラノベがあるよー」というのがございましたら、コメントなりトラックバックなりでお教えいただければ幸いです(ペコリ)。

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

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伝奇集 (岩波文庫)

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魔法先生ネギま!(1) (講談社コミックス)

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