2009年チェス小説まとめ

ディフェンス

ディフェンス

 2008年にナボコフの「最初の傑作」として知られる『ディフェンス』が新訳で復刊されました。だからというわけではないのでしょうが、2009年はチェス小説が豊作の一年でした。

猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ

 チェス盤の大海に泳ぎ潜る少年。静かで思弁的で、それでいてところどころに血肉の存在を否応なく感じさせる設定がぎりぎりの危ういバランスを保っています。チェスの不思議さや棋譜の美しさが描かれた幻想的なお話です。
【関連】『猫を抱いて象と泳ぐ』(小川洋子/文藝春秋) - 三軒茶屋 別館

戦場の画家

戦場の画家 (集英社文庫)

戦場の画家 (集英社文庫)

 「構造」という作品のテーマを表現するための見立てのひとつとしてチェスが使われています。作者のレベルテは他にも『フランドルの呪画』というチェスに凝った作品を書いてます。
【関連】『戦場の画家』(アルトゥーロ・ペレス・レベルテ/集英社文庫) - 三軒茶屋 別館

モーフィー時計の午前零時

モーフィー時計の午前零時

モーフィー時計の午前零時

 チェス小説のアンソロジーです。SF、ファンタジー、ミステリー、ユーモア小説、ノンフィクションとバラエティに富んだ作品が収録されています。チェス好きにとって満足度の高い一冊ではないでしょうか。
【関連】『モーフィー時計の午前零時』(若島正・編/国書刊行会) - 三軒茶屋 別館

ユダヤ警官同盟

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

 ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞といったSFとしての評価、あるいはミステリとしての評価が先行しているみたいですが、表紙絵にチェスの盤駒が描かれているのは伊達ではなくて、チェス小説としても充実しています。主人公のチェスへの愛着は趣味というレベルを超えてますし、物語のプロットにもチェスが深く関わっています。
【関連】『ユダヤ警官同盟』(マイケル・シェイボン/新潮文庫) - 三軒茶屋 別館

洋梨形の男

洋梨形の男 (奇想コレクション)

洋梨形の男 (奇想コレクション)

 中短編集ですが、その中の一編として「成立しないヴァリエーション」が収録されています。対局終了後に頭に浮かぶ様々な変化手順。それは決して過去を変えるために行なうものではありません。未来のために行なうものなのです。「指した手が最善手」だと受け入れて……。
【関連】『洋梨形の男』(ジョージ・R.R.マーティン/河出書房新社) - 三軒茶屋 別館


 「これだけ?」といわれると返す言葉もありませんが(笑)、正直いってマニアックな題材なのは否めませんし、これだけあれば大豊作なのですよ。どれもクオリティ高いですしね。私が把握している限りでは以上なのですが、他にも何か見落としがありましたらご教示いただければ幸いです。