将棋は”指す”、囲碁は”打つ”、じゃチェスは?(将棋用語3大ミス)

 本日から将棋の第65期名人戦森内俊之名人対挑戦者・郷田真隆九段の七番勝負が始まりました。二日制で持ち時間各9時間で、一局ごとの間隔は約2週間ありますので、もつれた場合には6月末に決着ということになります。
 まだ第一局の一日目ですが、挑戦者の立てる扇子の音に名人がクレームをつけて、その名人が鼻血を出すという、非常に白熱した展開になってます(←ウソみたいなホントの話らしいです。主催の毎日新聞の記事はこちら)。
 将棋にあまり詳しくない方にありがちな間違いの一つに、”羽生名人”というのがあります。名人を辞書、例えば広辞苑で引くと、技芸にすぐれて名のある人とあります。つまり、落語の名人とか釣りの名人とかと同じ感覚で羽生名人って言っちゃうんだと思います。しかし、将棋や囲碁において、名人というのはタイトルの一つであり、その称号はそのタイトルを保持している者しか名乗れません。将棋の場合、現名人は森内俊之なので羽生名人というのは誤りなのです。もっとも、例えばNHKですら、

企画 竜王渡辺明 勝負の年
4月11日(水)
先月、世界でもっとも強いコンピューター将棋ソフト「ボナンザ」に勝った22歳の若手棋士渡辺明。今年、将棋の最高峰タイトルである竜王の4連覇を目指し、竜王の座をねらう宿敵・羽生名人を倒すと鼻息が荒い。ボナンザに勝ったことをどう生かし羽生との対戦に臨むのか、この1年にかける思いを小郷キャスターが聞く。
http://www.nhk.or.jp/shutoken/ohayo/

と、堂々と間違えてるくらいですので、これを責めるのは酷なのかもしれません。
【関連】プチ書評 『名人』(川端康成/新潮文庫)

 もう一つありがちな間違いに、将棋を打つ、というのがあります。これは明らかに間違いで、将棋は”指す”ものであって”打つ”ものではありません。もっとも、これには無理もないところもあって、盤上にある駒を動かす場合には”指す”なのですが、持ち駒を盤上に置く場合には”打つ”で、”打つ”と表現する場合があるからややこしいです。これで、囲碁が”打つ”ですからややこしさに拍車がかかるのでしょう。細かいことと思われるかもしれませんが、靴を着る・服をはく、みたいな気持ち悪さを覚えてならないのが正直なところです。
 ところで、将棋は指すで囲碁は打つですが、じゃあチェスの場合はどうなのでしょう? 私の本棚をガサゴソ漁ってみましたが、ミステリ三巨頭の作品が目にとまりました。クイーンの『盤面の敵』ではチェスをやる、となってました。それでも意味は通じますが、何となく品がないですよね。クリスティの『ビッグ4』だとチェスをいたします、っていくら上流階級の会話だからって、いたします、はおかしいでしょう(笑)。カーの『曲がった蝶番』はもっと豪快で、チェスを将棋と翻訳しちゃってるのです。だから当然”指す”になります。ちなみに、言葉へのこだわりには定評のある森博嗣の『夏のレプリカ』だと、チェスをする、になってます。やはり意味は通じるのですが、正直しっくりきません。そのゲームをたしなむ人の一般的な呼び名はどうでしょう。将棋は将棋指し、囲碁は碁打ちです。じゃあ、チェスは? おそらく、チェス・プレイヤーじゃないかと思いますが、だからと言ってチェスをプレイする、じゃ変ですよね(笑)。個人的には、チェスは将棋と同じく盤上の駒を動かすゲームなのですからチェスを指す、チェス指しで良いと思ってるのですが、とても一般的とは思えません。普段チェスを趣味としてたしなんでる方がどのような言葉を用いているのか、とても気になるところです。どなたかご教示いただければ幸いです。
 話のついでに、もう一つありがちな間違いに”定石”というのがあります。口で発音(じょうせき)する分にはボロは出ませんが、文字で表すとやはり間違いが多いです。石の字が示す通り、定石は囲碁用語で、将棋の場合は”定跡”です。駒の動く跡、と覚えましょう(笑)。
 以上、羽生名人(羽生が名人位を獲得すれば間違いじゃなくなりますが)、将棋を打つ、定石、は将棋にありがちな三大間違いとされてて、これをやっちゃうと「こいつ将棋の素人だな」と思われちゃうので気を付けましょう(笑)。