まさに「キラークイーン級」の超怪作 舞城王太郎『JORGE JOESTAR』

JORGE JOESTAR

JORGE JOESTAR

 気鋭の小説家たちが『ジョジョの奇妙な冒険』を小説化する「vs JOJO」。
 上遠野浩平『恥知らずのパープルヘイズ』、西尾維新JOJO'S BIZARRE ADVENTURE OVER HEAVEN』に続き、トリを飾るのは舞城王太郎の『JORGE JOESTAR』です。
 『煙か土か食い物』で第19回メフィスト賞を獲得し、『阿修羅ガール』で第16回三島由紀夫賞を受賞、『好き好き大好き超愛してる。』『ビッチマグネット』『短篇五芒星』など3度の芥川賞候補になった鬼才・舞城王太郎
 舞城王太郎は読点を廃した独特の流れるようなフレーズとブレーキを踏み外したようなバイオレンス、一方で「掘り下げればきちんとしたミステリが書ける」トリックなど地に足着いた「地力」を持っており、その個性から賛否を巻き起こしながらしっかりとファンを獲得している作家です。
 正直、「舞城王太郎がJOJOを書く」と知った瞬間、「どこまでJOJOの世界を崩すか」にドキドキハラハラと期待した記憶があります。
 なにせJDCトリビュートとして書かれた『九十九十九』が「あの」問題作だったわけで、本作も強烈な「賛否両論」、舞城王太郎未読の読者に「衝撃」を与えるんじゃないかなぁ、と楽しみでもあり、心配でもありました。

ジョナサン亡き後、カナリア諸島ラ・パルマ島でエリナと暮らす少年ジョージ・ジョースターはリサリサと愛を誓い、成長してパイロットとなり世界大戦の空を駆る。
その一方、日本では、福井県西暁町のジョージ・ジョースターが運命とともに杜王町へ向かう…!
公式サイトより

 上記あらすじからもわかるとおり、本作は「JOJOの世界」と「舞城ワールド」を練成させた、まさに「vs」JOJOの一冊です。
 舞台はなんと第一部と第二部の狭間。そして主人公は、ジョセフの父でありリサリサの夫であったジョージ・ジョースター
 原作では吸血鬼の上官に殺される彼を、舞城王太郎が取り上げます。
 読了後の感想は、「さすが舞城王太郎っ!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる!あこがれるゥ!」でした(笑)。
 舞城王太郎読者ならば「あーやっぱりね」となる「福井県西暁町」という舞台。そして他人の作品ながら見事に自分の作品に組み込んだ「九十九十九」をはじめとするJDCのメンバー。
 読点を極力廃した流れるような文体、行き過ぎたグロ描写などの舞城王太郎節は健在で、舞城既読者ならば「あーこれこれ」とある種「安心」のクオリティです。
 しかしながら「舞城王太郎」と「JOJO」を両方知るフジモリにとっては、「舞城王太郎のJOJOに対する敬意」をそこかしこで受け取りました。
 詳細はネタバレになるので伏せますが、まさに「スーパーJOJO大戦」。夢のバトルがあちこちで展開されます。当然ながらすべてのキャラクターが登場するわけではありませんが、読者には「1部から7部まで全てを読んでいること」を前提としたかのような「JOJOワールド」を下敷きとしています。
 ストーリーそのもの、そしてキャラの言動は「カーズ先輩」に代表されるように人を食った展開が多々ありますが、根底では「JOJO愛」に満ちています。
 当然ながら人によって受け取り方は異なりますので、「ぼくの(わたしの)JOJOが汚された」と読後に本を壁に叩きつける人もいるでしょう。というか、舞城未読の読者の9割は叩きつけると思います。(断言)
 だからといって「賛(=舞城既読者)」「否(舞城未読者)」の二元論で不毛な平行線になるのは非常にもったいない作品です。本作は、「JOJO」を「舞城」が分解し、再構築し、自らと融合した「奇跡の作品」だと思います。
 JOJOだけに「波紋を投げかける」などと100万回言われたネタは言いませんが、良い意味で期待を裏切らない「問題作」になっていると思います。
 この本を読むことは「覚悟」が必要です。
 自身のもっている「JOJO」という価値観を崩されたくない人は、「【警告】これより先は読んではいけない」とあえて言いましょう。警告に逆らって読書した瞬間に、舞城王太郎のとっておきの「バイツァダスト」が発動し、脳天をパイプで叩かれたような衝撃を受けることでしょう。そして「時はさかのぼる」・・・舞城王太郎の他の作品を読まずにはいられなくなると思います。
 まさにがっぷり四つの「vs JOJO」。アンカーにふさわしい「キラークイーン級の問題作」でした。
【ご参考】
乙一版ジョジョは乙一なのにジョジョ。ジョジョなのに乙一。『The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day』
"荒木飛呂彦+上遠野浩平"という奇妙「じゃない」方程式 『恥知らずのパープルヘイズ』
西尾維新が真っ向から「ジョジョ」に挑む 『JOJO'S BIZARRE ADVENTURE OVER HEAVEN』
プチ書評 舞城王太郎『九十九十九』