舞城王太郎『九十九十九』講談社

九十九十九 (講談社文庫)

九十九十九 (講談社文庫)

 『煙か土か食い物』で第19回メフィスト賞を獲得し、『阿修羅ガール』で第16回三島由紀夫賞を受賞、『好き好き大好き超愛してる。』『ビッチマグネット』『短篇五芒星』など3度の芥川賞候補になった鬼才・舞城王太郎が「JDCトリビュート」に参戦した、「問題作」です。
 舞城王太郎は読点を廃した独特の流れるようなフレーズとブレーキを踏み外したようなバイオレンス、一方で「掘り下げればきちんとしたミステリが書ける」トリックなど地に足着いた「地力」を持っており、その個性から賛否を巻き起こしながら「思わずハマってしまう」ファンを獲得している作家です。
 「JDCトリビュート」とは、清涼院流水の作品『コズミック』『ジョーカー』などこれまた問題作に登場する「JDC(日本探偵クラブ)」のスピンオフ作品であり、西尾維新も『ダブルダウン勘繰郎』『トリプルプレイ助悪郎』などを書いています。
 生まれたときから美しさのあまり見るものを失神させてしまう「探偵神」九十九十九(つくも・じゅうく)。彼の数奇な人生の物語なのですが、舞城作品らしくエログロにあふれ、おまけにマトリョーシカ風の作中作を延々と繋げています。悪趣味な見立て殺人や「掘り下げればきちんとしたミステリが書ける」トリックを容赦なく使い捨てる舞城節は健在。
 登場人物もJDCのメンバーの名前こそ出ているものの、全くの別物になっています。
 また、舞城作品の特徴である「神話的なスケール」とか「作品の「外」に向かうメタ性」もたっぷりと織り込まれており、探偵神・九十九十九と彼を取り巻く様々な人物が死んだり殺されたり殺したりしながら「世界」そのものを揺さぶるスケールの大きな話になっていきます。
 おまけに作中には重要人物として九十九十九を書いた「清涼院流水」そのものも登場します。しかも清涼院流水が自身の小説を「流水大説」("小"説ではない、という駄洒落)といっていることから、

<<清涼院流水>>のやっていることが<<述べる主>>を経て<<述べ足り内/述べ切れ内>><>、<<脳辺那井>>、<<もうお前とは喋ってやんねー世>>>というふうに<<成長している>>というくだりは、<<清涼院流水>>が<<述べる主>>=<<神>>であることを示しているし、その<<神>>が<<述べ足りない>><<述べきれない>><<述べない>><<もうお前とは喋ってやんねーよ>>と語ることを放棄していく態度を見せることは、つまり<<全知全能の神>>ですら全てを知っているわけではない、という事実の表れだ!
(P339,340)

 と軽く清涼院流水を小馬鹿にした感じもあり、なんというか舞城王太郎九十九十九を完全に手の内に入れ、「舞城ワールド」に組み込んだ感じがします。
 『コズミック』『ジョーカー』など本編を読まなくても楽しめる作品ですが、舞城王太郎作品を未読でしたらその「強烈な刺激」を覚悟した上で読むことをおすすめします。