『探偵犬シャードック(1)』(作:安童夕馬・画:佐藤友生/講談社コミックス)

探偵犬シャードック(1) (講談社コミックス)

探偵犬シャードック(1) (講談社コミックス)

 週刊少年マガジンで連載中のミステリー漫画です。大英帝国が誇る伝説の名探偵シャーロック・ホームズが100年の時を超えてなぜか犬に転生します。シャードックと名付けられたその犬は、何故か言葉が通じる日本の高校生、輪島尊と共に様々な難事件の解決に挑む!というお話です。
 犬に転生、というのっけからファンタジーな設定が明らかとなりますが、だからといって本書はファンタジー×ミステリというわけではありません。犬が探偵というのは、本書の場合にはワトソン役である輪島尊を主人公として引き立てると同時に、本書の一番の売りである”倒叙ミステリ”としての布石として機能しているといえます。倒叙ミステリ(Inverted Detective Story)と呼ばれる手法が初めて試みられた作品として『歌う白骨』(オースチン・フリーマン/嶋中文庫)が知られていますが、その魅力についてフリーマンは次のように述べています。

 従来の推理小説においては、興味が「誰がやったか」という疑問に集中されている。犯罪の解決は、秘密として最後のページまで熱心に守られている。そしてその暴露がクライマックスになっている。
 このことを私はいつも何か間違ったことだと思っていた。現実生活では、犯罪の解決ということが実際的な理由からして、もっとも重要な問題だ。しかしそんな理由の全然ない小説というものの中では、読者の興味は主として、単純な行動の意外な結果や疑ってもいなかった偶然の関係を示すことに、また更に外見上支離滅裂な無関係な事実の山から系統だった証拠を見つけ出すことに向けられるべきだと考える。読者は「誰がやったか」という疑問には、たいして好奇心を抱いていない。むしろ「どうして発見に成功したか」という方に興味をもつのである。言い換えれば、聡明な読者は最後の結果よりも中間の行動の方によけい興味をもっているのである。
『笑う白骨』(オースチン・フリーマン/嶋中文庫)pp365〜366より

 本書収録作「CASE 1 12時20分の目撃者」の場合ですと、シャードックがたまたま事件の犯人の犯行直後の様子を目撃する第一発見者(?)となります。仮に目撃者が人間であれば事件は即解決ですが、犬とあってはそうはいきません。犬が見たからといってそのことを誰かが信じてくれるわけもなく、またワトソン役である主人公にしても、その証言をすぐさま完全に信用することもできません。なぜなら、殺人事件という重大事件であることはもとより、容疑者は主人公と親しい人物でもあるからです(お約束といえばお約束ですが)。探偵役であるシャードックは、真犯人を示し推理の過程においても様々なアドバイスをします。ですが、犯人と直接的に対峙して推理を構築し、ときには駆け引きもしつつ、最終的に犯人に自白を迫るのは主人公であるワトソン役の仕事となります。本書は第1巻ということもあって、倒叙ミステリとしてシンプルながらも犯人との駆け引きが楽しめる内容となっています。個人的には、遺書メールの写真の角度についての漫画という表現媒体ならではのシンプルなロジックが用いられていて好印象です。続刊も楽しみにしたいと思います。

歌う白骨 (嶋中文庫―グレート・ミステリーズ)

歌う白骨 (嶋中文庫―グレート・ミステリーズ)