ハチワン=081=オッパイと読んでしまう人のための『ハチワンダイバー 10巻』将棋講座

ハチワンダイバー 10 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 10 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 10』(柴田ヨクサルヤングジャンプ・コミックス)をヘボアマ将棋ファンなりに緩く適当に解説したいと思います。
(以下、長々と。)
 今回は独立将棋国家での菅田の連戦とそよ対氷村の一局と将棋が盛りだくさんですが、まずは菅田の将棋の方から一気に検討していきます(なお、菅田の将棋についてはすべて先後不明なものも含めて菅田先手で統一しましたので予めご了承ください)。
●第1図(p36〜37より)

 ▲2二歩成*1までで後手玉は詰んでいます。△同玉の一手ですが▲4四角成以下、(1)△2一玉▲2三香で、△1二玉には▲2二馬まで、△3二玉には△2二香成まで。あるいは(2)△1二玉としても、▲1三香△2一玉▲1一香成△2二玉▲3三銀成までの詰みです。
●第2図(p44より)

 姿焼きとは、自陣は手付かずでありながら攻めが完全に切れてしまい相手からの寄せを待つだけの状態のことを指します。金銀の大半を守備一辺倒に配置する穴熊囲いにおいて陥りやすいです。図の状態がまさにそうです。穴熊自体は手付かずで残っていますが、角は取られ飛車は自陣に押し込まれ、後はと金による確実な寄せを待つのみです。投了もやむなしです。
●第3図(p58より)

 斬野戦で酷い目にあわされた早石田からの速攻を菅田が採用して、それが見事に決まった形です。図で指すとすれば△同飛しかありませんが▲同馬まで、です。
●第4図(p74,3コマ目より)

 銀島戦は二こ神流の雁木対矢倉模様になりました。図は相手の攻撃を上手くいなしながら右四間からの反撃が決まった形です*2。図の角打ちはタダ捨てですが、△同玉と取ってしまうと▲5三角成が4九にいる飛車との連携もあって寄ってしまいます。なので仕方なく取らずに△3二玉としましたが、▲4三銀(p75)。ここでも3一の角はタダで取れますが、取ってしまうと▲3二金の詰み。仕方なく△3三玉とするものの▲3四金まで(p75)。
●第5図(p89より)

 対地無戦も雁木対矢倉模様です。雁木囲いのもっとも弱い地点とされている角頭を地無は攻めていきます。もっとも、実は図までの手順は定跡化されています*3。この角切りの狙いは△5九角成と王手で角を捨てての△8七飛成。それを喰らっては雁木不利です。なので、△8六角に対しては▲7八玉と受けて、△4二角などと引いてくれれば▲8六歩と打って一段落させる指し方もあります。ただし、その場合には、後手に歩が二枚入った場合に△8五歩▲同歩△8六歩▲7七金△7三桂の攻めがありますので、それは気を付ける必要があります。
 そこで、菅田は角切りの強手には強手で対抗します。すなわち、図からの▲同金です。もちろん後手は△同飛。角金交換は後手の駒損とはいえ飛車先を突破できれば後手よし、という考え方です。しかし、これには用意のカウンターがあります。▲7七角です。
●第6図(p91より)

 この手も実は定跡とされています。地無は△8七飛成としますが、これは雁木の思う壺。▲4五桂からの二枚角と飛桂のカウンターが炸裂して後手陣は崩壊してしまいます*4
 ちなみに、雁木の定跡については『雁木伝説』(毎日コミュニケーションズ編/MYCOM将棋文庫)を参考にしました。●第7図(p103より)

 ▲3五銀で後手玉は詰んでいます。逃げるなら3三か4三の二択ですが、どちらに逃げても▲3四銀打までです。
●第8図(p109より)

 相手のちょっとした言動からの思いつきで、雁木の囲いから変化しての変則振り飛車です。そもそも、雁木という戦法は居飛車に分類されますが、▲7六歩〜▲6六歩〜▲6八銀〜▲6七銀と、居飛車でありながら振り飛車(特に四間飛車)であってもおかしくない指し方をします。なので相手も居飛車だと決め付けることができません。むしろ振り飛車であることを想定して、船囲いと呼ばれる対振り飛車用の構えをまずとって、相手が居飛車(雁木)であることを確認してから矢倉囲いを目指すのが通常のパターンです。つまり、雁木の出だし自体に居飛車振り飛車の駆け引きが含まれているのです。
 菅田の雁木模様に対して、相手の三崎は雁木を警戒した構えを組みます。すなわち、対振り飛車用の船囲いではなく、蟹囲いと呼ばれる相居飛車系の陣形をとります。
●蟹囲い*5

 この囲いは角の睨みを利かせながら上部からの攻撃に備える構えです。ここから矢倉へと発展させて相居飛車での攻め合いになれば互角以上の戦いを期待することができるでしょう。反面、玉の脇腹ががら空きなので対振り飛車には弱い陣形だといえます。なので、とっさの思いつきとはいえ飛車を振った菅田の判断は、ここでは理にかなったものだといえるでしょう。飛車を振った菅田はここから穴熊を目指します。
●第9図(p128より)

 菅田の穴熊囲いは通常のものに比べて金が一枚離れてはいるものの、とりあえず周囲を守備駒で囲まれていて隙がありません。対する三崎陣は雁木を警戒しすぎたがあまり、振り飛車でこられたときの陣形の発展性がまったくありません(矢倉囲いは横からの攻めに弱いので、居飛車振り飛車の対抗形ではあまり良い囲いではないです)。菅田の作戦勝ちは誰の目にも明らかです。
●第10図(p130〜131より)

 この▲3三歩は▲3二歩成からの詰めろですが、△同金▲同桂△同角▲同飛と清算してしまってはそのまま詰んでしまいます。かといって△4二金としても▲3二金からの詰みです。△4二玉と逃げるくらいですが、▲3二歩成と駒を取られながら攻められて、おまけに菅田陣の穴熊は手付かずときては勝ち目がありません。投了もやむなしです。
●第11図(p149より)

 息つく間もなく四川戦。先の三崎戦を見た四川は、船囲いの駒組みで美濃囲いや穴熊といった陣形の発展性を残しながら駒組みを進める対振り飛車戦でのオーソドックスな序盤を採用します。しかし、船囲いは横からの攻めには強い反面、縦からの攻めには極端に弱い構えです。ゆえに、居飛車振り飛車の既成概念に捉われていない今の菅田の前には格好の餌食です。すなわち、船囲いの弱点を露骨に突いた▲3五歩からの急戦です。この筋があるので、船囲いは居飛車相手にはやってはいけない構えとされています。序盤における基本事項です。
●第12図(p150より)

 ▲4二角成の空き王手。これで後手玉は詰んでいます(△3四玉▲2四馬△4五玉▲4六馬△3四玉▲2三銀△3三玉▲2四馬まで)。ただし、▲4二角成よりも▲3三角成の方が次の▲2三飛成(▲2三馬)までで簡明でした。
 ちなみに、船囲いとはこんな囲いです。
●船囲い

 金銀の配置が船の形に見えるのが由来とされています。繰り返しますが、対振り飛車用の構えですのでくれぐれも注意してくださいね。
●第13図(p191より)

 ”ハチワンシステム”の成功によって穴熊対矢倉という作戦勝ちを実現させることができました。もっとも、穴熊といっても金銀2枚の穴熊なので過信は禁物です。堅陣を背景に菅田は金を中央へ進出させます。白木屋は△5四歩として食い止めようとしますが、その瞬間に菅田は▲3四歩と手裏剣を飛ばします。△5五歩▲3三歩成と金銀の取り合いになれば、陣形の堅さに差があるだけに菅田が指しやすいでしょう。とはいえ、△3四同金では先手の金の進出が止まりませんし、△3四同銀だと▲4四金とされて角を捌かれてしまいます。ここでは菅田が一本取ったといって良いでしょう(もっとも、実践的にはまだまだ難解だと思いますが)。
●第14図(p192より)

 図で後手玉は詰んでいます。△3五玉の一手ですが▲4六金までです。一応一手違いではありますが、菅田の完勝といってよいでしょう。
 続いて、氷村対そよの将棋です。
●第15図(p157より)

 互いに飛車先の歩交換を行なう相掛かりと呼ばれる戦形です。後手の飛車は自陣手前に位置していますが、この位置を浮き飛車といいます。対して先手の飛車は2八まで戻っていますが、ここまで戻ってから銀を3六に繰り出す指し方を”引き飛車棒銀”と呼びます*6。この銀は隙あらば棒銀の要領で2筋突破を見せることで後手の駒組みを牽制・制約する意味があります。なので、そよは△2二銀と2筋を手堅く受けましたが、これは手厚いとかではなくて、極めて常識的な手だと思います。他の手があったら教えて欲しいくらいです(笑)。ここから双方の駒組合戦が始まります。
●第16図(p159より)

 矢倉対菊水矢倉。矢倉囲いは相居飛車系では常套手段の囲いですが、菊水矢倉は少々珍しいです。低くて上部に手厚い囲いである一方、玉の側面ががら空きというで弱点もあります。この時点では双方の囲いはほぼ互角といってよいでしょうから、戦機をつかんだ方が仕掛けていくべきだと思いますが、本局は細かい折衝を経て再び囲い合いが始まります。
●第17図(p162〜163より)

 穴熊対ミレニアム*7。菊水矢倉の側面に銀が一枚張り付いたことで、陣形は格段に堅くなりました。一方で先手は穴熊の堅陣です。どちらが堅いかとなれば、通常であればミレニアムよりも穴熊の方が堅いです。ただし、本局の場合ですと後手のミレニアムは金銀4枚なのに対し先手の穴熊は3枚です。また、先手穴熊の金の位置が通常より一段高い位置にあるのも気がかりですし、端の付き合いがあることから端攻めが見えているのも不安要素です。総じて、堅さでは後手のミレニアムの方に分があると思います。そこで、ミレニアムが組みあがった直後にそよは敢然と仕掛けていきます。
●第18図(p164より)

 ▲7六金。この手で△4二角などと角が逃げるようだと▲7五歩と打たれて、これは押さえ込まれてしまうでしょう。しかし、ここで強手がありました。△6六角!
●第19図(p166より)

 タダ捨ての角ですが、だからといって▲同金ですと△7八飛成とされてあっという間に穴熊崩壊です。これは先手必敗です。▲7五歩は仕方のないところで、互いに飛車を取り合う展開から氷村はと金に望みを賭けました。”と金の遅早”という格言があります。足の遅いと金の攻めは一見間に合わないようではあるけれど、安い駒による攻めは確実なので、遅いようでも早い攻めになることがある、というような意味です。しかし、この場合は如何せん相手の攻めが早すぎました。上ずってしまった金を攻められ、それに端攻めを絡められてしまっては、さすがの穴熊もひとたまりもありません。
●第20図(p176より)

 先手玉は詰んでいます。指すとすれば▲同金しかありませんが、△同角▲同玉△8七銀▲9九玉(▲8九玉)△9八金までです。
 穴熊やミレニアムといった堅陣を好む棋士は一見すると受け将棋の気風のように思われるかもしれませんが、実は攻めに専念するために序盤で囲いに手数をかける攻めの棋風だったりします。本局のそよの場合がまさにそうです。受けに自信のある人ほど、実は急戦調の将棋での際どい受けが得意だったりします。攻めの棋風だから最初から攻めていくとは必ずしもいえないのが奥の深いところではないかと思います。
 ちなみに、本局には元になった将棋があります。2005年に行なわれたC級2組順位戦:熊坂学四段対大平武洋四段*8戦です(ただし、元棋譜は本局より早く投了しているので終盤が異なります)。興味のある方は是非並べてみてくださいませ。
(参考:将棋の棋譜でーたべーす:2005年順位戦熊坂学四段対大平武洋四段戦*9

ハチワンシステムについて

 将棋の定跡における2大システムといえば、藤井システム藤井システム - Wikipedia)と森下システム(森下システム - Wikipedia)でしょう。このうち、森下システムについては次のような文章があります。

 プロの矢倉に新風を巻き起こした”森下システム”は森下本人に言わせると戦法ではなく思想だという。それは先手でありながらすべての準備を整えて、後手の出方をみてそれから自分の陣形を決める。「後手にどう指されても対応できるだけの心構えを身につけること」ということである。
(『消えた戦法の謎―あの流行形はどこに!?』(勝又清和/MYCOM将棋文庫)p19より)

 ハチワンシステムは未完成ではありますが、思想としては森下システムと同様のことがいえます。ただし、森下システムは矢倉限定のシステムであるのに対し、ハチワンシステムは居飛車振り飛車、急戦・持久戦といった大まかな戦形すら問わない欲張りなところが特徴だといえるでしょう。
 現代将棋ではこれまでになかった変な序盤が急増しています。その結果、居飛車振り飛車の境界線も曖昧になりつつあります。
 例えば、”一手損角換わり”という戦法があります。従来なら手損として厳に戒められてきた後手からの角交換ですが、今では優秀な戦法としてタイトル戦でも普通に登場してきています。その根幹には「手得」よりも桂馬の活用の余地を残す「形の利」というものがありますが、わずか一手の違いが将棋の定跡に新たな可能性をもたらすことになりました。そんな一手損角換わり戦法に、同じく手損を省みずに角交換して飛車を振る”角交換振り飛車”が混ぜ合わされることで、角交換将棋においては居飛車振り飛車の区別が困難な場面が多々見られるようになりました。
 同じような例として4手目△3三角戦法*10があります。

 互いの角が向い合ったままの状態で△3三角と上がるこの指し方は、△2二飛車と回っての向かい飛車からの飛車先逆襲を大きな狙いとして含みつつも、▲3三角成△同桂となってからは、居飛車振り飛車との両方に変化し得ます。そして、どちらの変化を選ぶにしてもその可能性は膨大なものです。相手の出方によって居飛車にも振り飛車にもなり得る4手目△3三角戦法は、ハチワンシステムの思想に極めて親和性が高いものだといえるでしょう。
 ちなみに、4手目△3三角戦法の解説書としては『変幻自在!! 窪田流3三角戦法』(窪田義行/マイコミ将棋BOOKS)があります。本書は4手目△3三角から振り飛車に変化する指し方を中心に解説されていますが、多岐に渡る変化の中から先手・後手の双方の視点から参考になるような基本的な手筋・目指すべきイメージというものが分かりやすく記されている良書ですので、興味のある方には強くオススメしておきます。 話を元に戻しますが、上述したように、まず雁木の出だし自体に居飛車なのか振り飛車なのかハッキリしない側面があります。そこが雁木の隠れた強さでもあります。つまり、雁木とは振り飛車を匂わせながら居飛車を指す戦法であるともいえます。そこから、雁木を見せながら飛車を振る余地も残すことで相手の出方によって対応するという指し方は、温故知新にして現代将棋の風潮をも巧みに取り込んだ展開として積極的に評価することができるでしょう。
 菅田自身の棋風としても、真剣師に成り立ての頃は、序盤はテクニックモードで飛ばして駒がぶつかってから考えるという中終盤重視の棋風でした(特に1巻参照)。それが、雁木や新・早石田といった序盤から難しい駆け引きを伴う戦法を得意とする相手と戦い、さらには独立将棋国家で得意戦法の封印を迫られた結果、菅田の将棋はより一層進化するキッカケをつかむことになりました。未完成ではあっても、菅田が将棋指しとしてさらに強くなる一歩を踏み出したことは間違いないと思います。
 システムとしての具体的な手順についても少し触れておきましょう。まだまだ未完成であるとはいえ、指し手の骨子みたいなものは描かれています。

 ハチワンシステムの骨子とされているこの形は、守備駒である金が左に移動しているのでひとまずは居飛車(矢倉・雁木)を思わせる形ではありますが、ここから中飛車にするのも昔から指されていますので、必ずしも居飛車とは断定できません。さらに、ここから▲3六歩と突いて急戦を匂わせます。もし相手が穴熊に囲う姿勢を見せたら▲3八飛などの急戦で牽制しつつ自分だけ穴熊に組んで作戦勝ちを狙う、というものです(本書p189〜190参照)。
 一見すると上手い指し方のように思えますが、まだまだ実戦経験の少ない形なので不安要素もあります。個人的な見解として、(1)▲6六歩と角道を止める持久戦指向の手と▲3六歩と急戦を見せる手は両立するのか?(2)穴熊に囲うには手数がかかる。仮に穴熊に組めたとしても金銀2枚の穴熊はそれほど堅くないのではないか?(3)オーソドックスに雁木戦を挑まれても普通に難解なのでは? といった点が、もし自分で指すとしたら気になります。
 とはいえ、発展途上のシステムだからこそ今後の展開に楽しみが増えたともいえます。序盤からの指し手の可能性に貪欲になったからには、これから益々意欲的な序盤戦術が指されるようになることが予想されます。一将棋ファンとして素直に楽しみです。
【参考】柴田ヨクサルが指した”ハチワンシステム” - 三軒茶屋 別館


 今回は前巻の反動もあってか将棋三昧でした。そのため、当解説記事もいつになく長文になってしまいましたが、将棋が増えたからといって一局一局に手を抜くわけにはいかないと私なりに意地を張った結果ですので、何卒ご容赦くださいませ。とはいえ、その分なにかしらのミスがある可能性は捨て切れませんので、何かありましたらコメント等でご指摘いただければ幸いです。ばしばし修正しますので(ペコリ)。



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柴田ヨクサル・インタビュー
『ハチワン』と『ヒカルの碁』を比較してみる

*1:細かいようですが、▲2二と金の可能性もないではないです。

*2:本当は1コマ目からの流れも再現したかったのですが、盤面・持ち駒に不明な点があり辻褄をあわせることができなかったので断念しました(トホホ)。

*3:参考までに具体的な手順を示しますと、▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八銀△6二銀▲6七銀△5四歩▲5六歩△4二玉▲4八銀△3二玉▲5七銀△8五歩▲7八金△5二金右▲6九玉△4二銀▲5八金△4四歩▲4六歩△4三金▲4八飛△3三銀▲6五歩△3一角▲9六歩△8六歩▲同 歩△同 角▲8七歩△3一角▲3六歩△7四歩▲4五歩△同 歩▲3七桂△8六歩▲同 歩△8七歩▲同 金△8六角 です。

*4:▲4五桂に対して、△4四銀なら一例として▲同角△同金▲同角△8九龍▲7九金。また、△4四歩なら一例として▲3三桂成△同金に▲8六歩と閉じ込めて▲7八銀からの捕獲を狙います。いずれにしても雁木よしです。

*5:玉の斜め前にいる二枚の金を蟹の鋏に見立ててこうした名前が付けられているのだと思います。

*6:他に”鎖鎌棒銀”とか”UFO銀”とか呼ばれたりもします。

*7:もっとも、ミレニアムとは本来は藤井システム対策として開発された囲いなので、相居飛車戦でのミレニアムは少し勝手が違いますが。

*8:段位は当時。

*9:余談ですが、漫画においてこの将棋で負けた氷村は這ったままそよを鬼将会まで案内することになりました。一方、元棋譜となった将棋では、この将棋で負けた熊坂四段は順位戦陥落、つまりフリークラス行きが決まってしまいました。フリークラスに転出してしまうと、一定期間内に規定の成績を収めないと順位戦に復帰することができず、やがては引退を余儀なくされてしまいます。しかも、熊坂四段は四段昇格から3年という最短でのフリークラス転出です。勝負の世界の厳しさをまざまざと思い知らされる棋譜なのです。

*10:似たような名前として、横歩取り将棋でも3三角戦法と呼ばれる指し方がありますが、それとはかなり異なりますのでご注意を。