『JOKER(1)』(上杉可南子/ジュールコミックス)

JOKER(1) (ジュールコミックス)

JOKER(1) (ジュールコミックス)

アホかあたりまえだ!
最上の一手を指して相手をねじ伏せた時のあの快感をあじわったものが
そう簡単にやめられるわけがねえ
(本書p102より)

 「JOUR素敵な主婦たち」(双葉社)という雑誌で連載されている漫画です。主人公・斉藤一花は23歳の女流棋士(女流二段*1)です。10代でデビューしてタイトルを二つ獲ったものの「20歳過ぎればただの人」。いろいろあって彼氏いない歴=年齢ですが、なのに、これまたいろいろあって何故か小学生と同棲することになって……といったお話です。
 とりあえず本書は恋愛漫画ということになるのでしょう。で、私はこれまで主婦向けの漫画雑誌というものを読んだことがないことを予めお断りしておきますが、ハッキリいって恋愛漫画としてはハチャメチャです。表紙を見ればお分かりいただけることでしょうが、結婚詐欺師の息子である小学生と同棲することになって、しかもその小学生に養われるってどんなショタ漫画ですか(笑)。しかしながら、読んでてあまりショタ漫画という感じはしません。なんというか、ホントにいろいろ酷くてぐちゃぐちゃなのですが、いろいろ酷いことは本人も自覚してます。なので、全体としてはコミカルな印象です。
 恋愛漫画としては滅茶苦茶なのですが、将棋漫画(あるいは女流棋士漫画)としては思ってた以上にしっかりとした内容なのが驚きです。普通、逆だと思うのですが(笑)。

わたしはプロの棋士である。
女流プロ棋士というのは給料がない。したがって将棋でお金を得るにはタイトルを獲るしかないのだが……
このタイトルも男性棋士にくらべてはるかに少なければ、賞金もゼロの数がふたつも少ないのだ。
ゆえに将棋で食べようとすれば、地方のイベントに呼ばれるか指導対局などでちまちま食いつないでいくしかないのである。
(本書p50〜51より)

 まず、いわゆるプロ棋士棋士 (将棋) - Wikipedia)と女流棋士女流棋士 (将棋) - Wikipedia)とでは、そこに至るまでの過程が異なります。また、プロ棋士女流棋士とでは実力に差があるのが現状です。収入面での差にはこうした背景もあります。華々しいイメージの女流棋士ですが、現実はシビアです。そんなわけで、かつてスターだった彼女も今では連敗にあえぎ、地方での将棋の指導で糊口をしのいでいます。
 恋愛漫画としての滅茶苦茶さを将棋漫画としてのリアリティ*2がカバーしているという当初のイメージとの違い・ギャップがとても面白いです。斎田晴子女流五段*3が将棋監修を担当しているのは伊達ではありません。イロモノなのを承知で手に取って、実際にイロモノではありましたが(苦笑)、これはこれで何気に続きを読むのが楽しみです。



 せっかくなので作中の盤面についても少々。

 p81より。それ以前の▲5五角からの流れとしては少しおかしい気もするのですが、ご愛嬌ということで。
 図の▲4一銀以下、△同玉▲5二金△3二玉▲4二と△同金▲同金△同玉▲5三銀△4一玉▲4二金まで。すなわち、「あと…10手で俺の負け?」です。ゆえに投了もやむなしです。

 p132〜133、指導対局の局面より(持ち駒は一部推測です)。図の飛車打ちで先手玉は詰んでいます。▲同玉は△7八金まで、▲5八玉は△4八金、▲6八玉は△7八飛成▲5九玉△4八とまで。確かに終わっています。ゆえに投了もやむなしです。
 二局ともなにか元棋譜があるような気がしますので、ご存知の方がおられましたらご教示いただければ幸いです(ペコリ)。
【関連】『JOKER(2)』(上杉可南子/ジュールコミックス) - 三軒茶屋 別館

*1:細かい事ですが、タイトルをふたつ獲ったことがあるということなので、少なくとも女流三段でないとおかしいように思います。【参考】昇段規定:日本将棋連盟

*2:とはいえ、ホントに将棋界に詳しい方が読むといろいろと違和感があることでしょうが、大目に見れない程ではないと思います。

*3:p1には「女流四段」とありますが、2011年6月9日付で女流五段に昇段しています。