2011年の将棋とかの漫画や小説についてなど。

 当ブログは多趣味を標榜しつつも基本的にはミステリ書評ブログのはず……なのですが、昨年は毎月のように刊行され続ける将棋漫画の解説記事を書くのに追われた一年でもありました。ブログ解説当初は将棋漫画といってもハチワンしかなかったので気楽なものだったのですが*1、まさかこんなことになろうとは……。というわけで、昨年の将棋漫画と小説と、それから近接ジャンルであるチェスと囲碁を題材にした作品について簡単に振り返ってみたいと思います。

チェス

チェスをする女

チェスをする女

謎のチェス指し人形「ターク」

謎のチェス指し人形「ターク」

 昨年読んだ本の中でもっとも印象に残っている本が『チェスをする女』(ベルティーナ・ヘンリヒス/筑摩書房)です。ギリシャナクソス島に生まれて育ち、大人になって結婚して母となった42歳のエレニですが、ふとしたきっかけからチェスと出会うことでそんな彼女の人生と価値観が一変します。多くの方にオススメしたい一冊です。
 また、年末には『謎のチェス指し人形「ターク」』(トム・スタンデージ/NTT出版)という本が刊行されています。私はまだ未読なのですが、非常に気になります。できるだけ早く入手して読んでみたいです。
【参考】『チェスをする女』(ベルティーナ・ヘンリヒス/筑摩書房) - 三軒茶屋 別館

囲碁

囲碁小町 嫁入り七番勝負

囲碁小町 嫁入り七番勝負

天地明察(1) (アフタヌーンKC)

天地明察(1) (アフタヌーンKC)

 2010年12月末に刊行された創元SF短編賞アンソロジー『原色の想像力』(大森望日下三蔵山田正紀 編/創元SF文庫)には第一回創元SF短編賞山田正紀賞「盤上の夜」が収録されています。四肢を失い囲碁盤を感覚器官とすることで囲碁を打つ女性棋士の栄光と苦悩を描いた作品です。また、長編では『囲碁小町 嫁入り七番勝負』(犬飼六岐/講談社)という作品が刊行されています。江戸時代を舞台に”囲碁小町”と呼ばれる評判の囲碁の打ち手が嫁入りをかけて囲碁の七番勝負を戦います。作中では『天地明察』の主人公・渋川春海のエピソードも語られています。そういえば、『天地明察』のコミックス版も今年刊行されてます。
【参考】『囲碁小町 嫁入り七番勝負』(犬飼六岐/講談社) - 三軒茶屋 別館
 ちなみに、こんなニュースもあったり。
asahi.com(朝日新聞社):高1、1位で囲碁棋士合格 船橋の大西さん、「ヒカルの碁」きっかけ - 小中高ニュース - 教育

将棋小説

盤上のアルファ

盤上のアルファ

ダークゾーン

ダークゾーン

サラの柔らかな香車

サラの柔らかな香車

 『盤上のアルファ』(塩田武士/講談社)は第五回小説現代長編新人賞と第23回将棋ペンクラブ大賞文芸部門大賞を受賞、『ダークゾーン』(貴志祐介祥伝社)は第23回将棋ペンクラブ大賞特別賞を受賞しています。『盤上〜』は新聞記者の視点からアマチュアがプロ編入試験の番勝負を戦う姿を描いたお話で、『ダーク〜』は将棋のプロ棋士の予備軍である奨励会三段の塚田が「ダークゾーン」という異次元での頭脳ゲームに巻き込まれての戦いを描いたお話です。個人的には、「症例会」とも揶揄されるプロ将棋棋士の養成会・奨励会の負の側面にまで踏み込んだ『ダークゾーン』の方が断然好みです。
 また、今年の2月には元奨励会1級の著者が書いた『サラの柔らかな香車』(橋本長道集英社)が第24回小説すばる新人賞受賞として刊行されます。読書好きの将棋ファンにとっては今後も楽しみが尽きません。
【参考】
『盤上のアルファ』(塩田武士/講談社) - 三軒茶屋 別館
『ダークゾーン』(貴志祐介/祥伝社) - 三軒茶屋 別館

将棋漫画

ひらけ駒!(1) (モーニング KC)

ひらけ駒!(1) (モーニング KC)

JOKER(1) (ジュールコミックス)

JOKER(1) (ジュールコミックス)

地上はポケットの中の庭 (KCx)

地上はポケットの中の庭 (KCx)

ヒストリエ 7 (アフタヌーンKC)

ヒストリエ 7 (アフタヌーンKC)

王狩(3) (イブニングKC)

王狩(3) (イブニングKC)

 どうしてこうなった……。
 『ひらけ駒!』(南Q太/モーニングKC)は将棋に打ち込む小学四年生の宝と、それを見つめる母親という母子の姿を描いた将棋漫画。将棋漫画版『よつばと!』ともいえます。『JOKER』(上杉可南子/ジュールコミックス)は元天才女流棋士(今は20歳過ぎてただの女流棋士)と小学生との同棲生活(?)という奇妙な恋愛漫画。『BLOOD〜真剣師将人〜』(落合祐介/ヤングキングコミックス)はやさぐれた生活を送っていた将人の元に突然やくざがやってきて、父親が残した10億の借金を「真剣」で返すことになるお話。3作とも見事な住み分けです。『ハチワンダイバー』や『3月のライオン』などと合わせて、漫画好きの将棋ファンにとっては今後も楽しみが尽きません。
 また、短編集『地上はポケットの中の庭』(田中相/KCx ITAN)には「まばたきはそれから」とオマケ漫画「城間クンのドキドキ対局日誌」が収録されていますが、どちらも若手プロ棋士が対局に臨む姿を描いた作品です。青春してます。ちょっと変わったところでは、『ヒストリエ』(岩明均アフタヌーンKC)7巻限定版には作中に登場する作者オリジナルの将棋「マケドニア将棋」が付録として付いています。限定版なので最早入手困難かもしれませんが、指してみるとなかなか面白いです。
 一方で、『王狩』(青木幸子/イブニングKC)が3巻で第一部完という残念なニュースも。まだまだこれからだったのに……。思うに、『ダークゾーン』にて「症例会」とも揶揄されている奨励会の”毒”は、才能ある少年少女たちを主役とする華やかなストーリーをもってしても薄め切れなかったというところでしょうか。あと、将棋のゲームにおける記憶以外の重要な要素や棋士のアスリート性といったものをもう少し分かりやすく表現できてたらよかったのかも、と思わなくもないです。難しいものですね……。
 ちなみに、『3月のライオン』は第35回講談社漫画賞一般部門受賞。『ハチワンダイバー』は23巻という長期連載となり物語は収束に向かっています(とはいえ、先はまだまだ長そうですが)。将棋漫画フリークとしては嬉しい悲鳴です。今年も頑張ります。
【参考】
『ひらけ駒! 1巻』将棋ヲタ的雑感 - 三軒茶屋 別館
『JOKER(1)』(上杉可南子/ジュールコミックス) - 三軒茶屋 別館
『BLOOD〜真剣師将人〜 1巻』(落合祐介/ヤングキングコミックス) - 三軒茶屋 別館
『地上はポケットの中の庭』(田中相/KCx ITAN) - 三軒茶屋 別館
漫画雑誌で現在連載中の将棋漫画をマトリクスで紹介してみる。 - 三軒茶屋 別館
マケドニア将棋を指してみました。 - 三軒茶屋 別館

*1:あ。『しおんの王』もありましたね(汗)。