奥様はケンタウロス 九井諒子『竜の学校は山の上』

竜の学校は山の上 九井諒子作品集

竜の学校は山の上 九井諒子作品集

 竜について学ぶ「竜学部」がある大学を舞台に新入生の主人公と「竜研究会」が繰り広げる「竜」についての物語である表題作など、九井諒子による9編の短編集です。
 帯に「現実と幻想が入り混じる「九井ワールド」へご案内」とありますが、彼女の描く世界はまさに「現実」と「幻想」の架け橋。
 例えば、魔王を倒した世界における勇者の孤独を描いた「帰郷」
 同じく魔王を倒した世界が舞台となる「魔王城問題」では、瘴気と毒にまみれた「魔王がいる城」をどう扱うか、というお話です。
 例えば、ケンタウロスが「馬人」と呼ばれ通常の人間は「猿人」と呼ばれる世界で、奥様がケンタウロスな夫婦を中心とした「現代神話」

 働くことに長けているが休むことや怠けることが出来ない「馬人」と彼らに仕事を奪われる「猿人」との対比、そして種族を超えた愛や理解をときにコミカルに、ときにシリアスに描きます。
 他にも、天使のような羽根を持つ同級生とのほろ苦い恋の物語「進学天使」や、村を豊かにするために人柱を女神の嫁にする話「代紺山の嫁探し」など、デフォルメとリアリティのバランス配分が絶妙な魅惑的な画風と現実の延長にある幻想という舞台、そしてちょっぴりシニカルなスパイスで紡がれるストーリーテリングで、良質な絵本を読んだかのような「ほうっと」した気分になります。
 帯には「幻想」という言葉に「ファンタジー」とルビをふっていますが、どちらかというと「メルヘン」という言葉の方がより相応しいと思います。

メルヘンとは
メルヘン、メルヒェン(M〓rchen)は、ドイツで発生した散文による空想的な物語。非常に古くて重要な文学形式の一つであり、英語ではフェアリーテール(Fairy tale、妖精物語)、フランスではコント(contes de f〓e)と呼ばれるものに相当する。その起源を説話(おとぎ話)、口承文芸に起源を持つフォルクスメルヘン(Volksm〓rchen、民話、民間メルヘン)と、それらを元に創作したクンストメルヘン(Kunstm〓rchen、創作メルヘン、創作童話)がある。
wikipediaより

まさに現代のおとぎ話。
今年読んだ中では現時点でベストに位置する傑作です。多くの人に読んでもらいたいオススメの一冊です。
【作者HP】西には竜がいた