『ゼロ年代SF傑作選』SFマガジン編集部編

ゼロ年代」という括りについて、きちんと考察し理解しないまま既に10年代最初の年を半分過ぎてしまっていますが、本書はその「ゼロ年代」を代表する作家によって書かれたSF短編8編を収録しています。
イリヤの空、UFOの夏』の秋山瑞人、『マルドゥック・スクランブル』の冲方丁、『サマー/タイム/トラベラー』の新城カズマ、『凹村戦争』の西島大介、『あなたのため物語』の長谷敏司など、当blogでも何度か記事にしている作家による短編集であり、フジモリにとってはドストライクでお得な一冊でした。
特筆すべきは、作者紹介と解説です。各作家が「ゼロ年代」にどのような作品をどのように書いてきたか、そして今回掲載されている短編がどのような位置づけかについて丁寧に書かれており、さながら「ゼロ年代作家の入門書」としても非常に有用だと思います。事実、この本をきっかけに読んだことのない作家の作品を読みたくなりました。
解説にあるように、「サイバーパンク」がハードウェアによって変貌する未来を描く物語だとすれば、本書に掲載されているのは「ソフトウェアによって変貌する未来」です。「リアル・フィクション」というジャンルがそれを表現しようとしていたと思われますし、そういう意味では「世界」を「創造/想像」する作品群に様々な可能性を感じました。
以下、各短編の所感です。

マルドゥック・スクランブル”104”」(冲方丁

日本SF対象受賞作品『マルドゥック・スクランブル』の続編、『マルドゥック・ヴェロシティ』内の出来事として物語は紡がれます。駆け引きとバトル、そして倫理からやや外れた世界観は相変わらずで、短い物語の中にぎゅっと濃縮されています。
【ご参考】
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「アンジー・クレーマーにさよならを」(新城カズマ

スパルタという都市が「物語化」される掌編と未来の女子高生の掌編が交互に紡がれる、なんとも奇妙な読後感を残す短編です。
そういえば、ゼロ年代は「並行世界」を題材に描かれた物語が多々あったなぁ、と思ったり。
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「エキストラ・ラウンド」(桜坂洋

ゲーム世界と現実世界を対等に扱う「現代」を切り取った佳作、『スラムオンライン』の後日譚です。
主役になれなかった人々の物語。そして、主役でなくとも「物語」は存在する、というお話です。
【ご参考】
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「デイドリーム、鳥のように」元長柾木

「飛鳥井全死」シリーズの元長柾木による「物語を読み、書き換える」能力を持った異能力者によるお話です。
解説にある、「エロゲー的世界観により変貌した未来を描く」という表現は言い得て妙だと思います。

「Atmosphere」西島大介

同名のマンガ『アトモスフィア』の原型である短編です。
凹村戦争』『ディエンビエンフー』など、人間をつきはなしたかのように描く絵柄は、ある意味「ゼロ年代」を代表しているように思えます。

「アリスの心臓」(海猫沢めろん

『左巻キ式ラストリゾート』で一部カルト的人気を持つ海猫沢めろんによる、<五次元とエロ本>をテーマとした(解説ママ)短編です。「意識酔い」しそうな独特の世界描写は読む人によっては癖になると思います。

「地には豊穣」(長谷敏司

『あなたのための物語』と世界観を共有した舞台による、文化という「背骨」について描かれた物語です。
独特の世界観で、『あなたのための物語』を読みたくなりました。
【ご参考】
『あなたのための物語』(長谷敏司/ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) - 三軒茶屋 別館

「おれはミサイル」(秋山瑞人

イリヤの空・UFOの夏』の著者による、星雲賞日本短編部門受賞作です。
ミサイルと戦闘機による奇妙な友情のお話。死生観や世界観の衝突は、さながら文化の衝突と相互理解について模されているようでいろいろと考えさせられます。
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前半でも書きましたが、ゼロ年代を代表する作家の豪華な入門書でもあり、史料でもあると思います。この短編集から新たな読書ライフが広がる、そんな可能性を秘めた一冊でした。短編に興味をもたれたら、ご参考にある長編にも手を出してみてくださいませ。