『七花、時跳び!―Time-Travel at the After School 』(久住四季/電撃文庫)

七花、時跳び!―Time‐Travel at the After School (電撃文庫)

七花、時跳び!―Time‐Travel at the After School (電撃文庫)

 著者はかつて『ミステリクロノ』という時間を操作するSFミステリのシリーズを書いてまして、そちらは残念ながら3巻までで打ち切りとなってしまったみたいですが、おそらくはそのシリーズで書こうと思っていたネタをコミカルな日常系のこじんまりとした青春SFに仕上げたのが本書です。
 とはいうものの、本書はタイムトラベルSFとしては極めてシンプルかつ初心者向けの仕様となっています。ライトノベル的にお約束な展開とか、ときに少々マニアックなネタ(主にガンダム)もあったりしますので、万人向けといってしまうと言い過ぎかもしれません。ですが、それでもタイムトラベルSFの佳品として広くオススメするのにやぶさかではありません。

「いやだって、大学に行っても別にやりたいことなんかないし。それなのに勉強しろ勉強しろって言われても、やる気なんか出ないんだよ」
「そういうモラトリアムの場として、今の日本には大学という便利な機関が用意されているんだよ」
「だからそんな時間稼ぎみたいな理由で励めないんだっつの。大体、別に全然やってないわけじゃないぞ。それなりにやってるぞ。それなりに」
(本書p29より)

 ベタにして普遍的な苦悩を抱えている主人公の柊和泉。懊悩とした日々を過ごしていた彼の下に突然訪れたタイムトラベルという奇跡。もっとも、タイムトラベルを身につけたのは後輩の七花ですが。そんなわけで、二人はタイムトラベルでいろんなことをします。とは言っても、そんなに大袈裟なことではなくて、ちょっとしたいたずらとかすべったりとか実験とかトラブルとかの様々な出来事を経験することによって、ときには凹みはするものの、やがて柊は将来に希望を見出すことになります。……などとまとめてしまうとあまりに無粋で少々申し訳ないように思うのですが、しかし、王道には王道のよさがあることも確かです。青春っていいもんですねコンチクショー。
 あと、本書の内容とは直接の関係はありませんが、「親殺しのパラドクス」と「ドッペルゲンガーを見たものは数日のうちに死ぬ」という伝説はもしかしたら通じるものがあるのかもしれないな?とか思ったりしました。戯言ですけどね(笑)。